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「愛憐は、仁たちと一緒に寝るのか?」
「どうしようか迷っています。やはり、夫婦で一室の方が良いのですよね?」
廊下で、人の邪魔にならない端の方で話をしている。
小首を傾けるという仕種が、とても愛くるしいので、思わず、珠羅はギュッと抱きしめてしまった。
「この旅行が終わったら、私の部屋へ移ってくれるか?」
「はい。私も、珠羅様と考えは同じです。仁だけは、私の世話がいるので、たまに仁の部屋へは行くのは可能ですか?」
抱かれる腕の中で、愛憐は聞いた。
胸の鼓動も早くなっているのは、もう珠羅に伝わっているだろう。
「愛憐の世界の話は、私もとても興味深い。あすは、華陀留殿と散策する予定だが、愛憐は、何か興味のある事はないだろうか? 例えば、魔法なんかは?」
珠羅は、そっと愛憐から身体を離してからそう聞いた。
「そうですね、先ほどのお話の中で、エルフと魔法使いがいるという話を聞いてから、魔法には興味出てきました。それより、寝室へ移動してからお話しませんか? ここだと、他の人の耳に入るかもしれません」
「それもそうだな。気が付かず済まなかった。寝室へ行こう」
珠羅は、愛憐の手を握り部屋へ移る。
夫婦になったばかりで、愛憐に気恥ずかしさもあるが、こうする事は自然なのだろう。
寝室で、セミダブルのベッドに二人、横に並んで目線を合わせて、時折、珠羅が愛憐の頭を撫でつつ、愛憐の話に相づちを打っている。
やがて、眠気に襲われてきたのか、愛憐が眠たそうにしたところで、華陀留に魔法について教えてもらえる人がいないか聞いてみると言って、この話を終えた。
おやすみなさいという愛憐の世界の夜の挨拶で締めくくった。
翌朝、愛憐が目を覚ますと珠羅の姿がなかった。
(いけない! うっかり寝坊しちゃった!)
勢いよく起き上がって、愛憐は客間へ急いだ。
「おはようございます! あの……私、寝坊したみたいですね……えーと、珠羅様と華陀留様は?」
そこに居合わせたエルフの弥陀に声をかけた。
「おはようございます。二人の陛下なら、中庭へ出られてます。昨夜はよく寝られましたか?」
「はい。おかげさまで。お二人は、すでに朝食を終えたという事ですね?」
「はい。あ、すみません、今、愛憐様の分を用意してきますので、座ってお待ち下さい」
弥陀は、頭を下げると急ぎ足で客間から出て行った。
「愛憐さん、お腹すいたニャン」
「あら、仁も起きたの? 流宇さんは?」
「間もなく来るニャン。珠羅さんは出かけたのかニャン?」
愛憐の足元にちょこんと座る仁は、目を入れても痛くないほど可愛い。
「華陀留様と一緒にお散歩しに行ったみたいよ。待ってたらご飯を持ってくるよ。ほら、来た」
「お姉さん、我にもご飯下さいニャン。もちろん、流宇の分もお願いしますニャン。愛憐さんは、先にいただくのニャン?」
「待つよ。一緒に食べようね」
足元に座る仁に微笑んだ。
そうこうしていると、パン等が運ばれてきた。
ピンク色のした飲み物もテーブルの上に置かれたので、聞いてみるとローズヒップというハーブティーだと教えてくれた。
こうして、愛憐たちの遅い朝食が始まった。
同時に、珠羅たちが客間へ戻ってきたのだ。
珠羅と目が合ったのだが、愛憐はプイとそっぽを向いた。
(どうして、私を誘ってくれなかったの?)
そう思うと、先ほどのような態度を取ってしまったのだ。
「おやおや、嫉妬でもされているようです」
子霧の皇帝、華蛇瑠は愛憐の様子から珠羅に嫉妬していると推測。
ご飯を食べていた仁が、顔を上げて珠羅をじっと見つめる。
「仁様、どうしました?」
「愛憐さんが、珠羅さんが置いていったと思っているニャン。ダメだニャン、奥様一人にしたら」
猫姿になって仁は、珠羅に猫パンチをした。
痛くもないのだが、このあざかわなやり方はどの世界にも共通するのか、珠羅は困り果てる。
「愛憐を起こしてはいけないと思ってそっとしたのだが、それが寂しくさせたと?」
「そうニャン。愛憐さんは、我と違い、まだこの世界に慣れていないのに、旅先で一人にしたら我だってすねるニャン。ごめんなさいするニャン」
ちょいちょいと珠羅の足先を前足で叩く仁。
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