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「大丈夫じゃないです。元のいた世界のママに会いたい……、パパも、友達にも会いたい……」
愛憐の瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちる。
転生したという事は、元の世界に戻れない事を意味している。
仁を助けたのと引き替えに、自分は異世界で生きていかないといけないという現実は、頭でわかっているつもりでも、一度不安になると情緒不安定になる。
えぐえぐ……、嗚咽が止まらないので、弥蛇が傍に寄り添い優しく宥める。
「珠羅様、あとはお願いします。私、お水を持ってきます」
あとは、珠羅に任せる事にして弥蛇は客間から急いで出ていった。
「愛憐の寂しさに気づいてあげられず済まなかった……。私や仁などがいるゆえ、甘えたい時は甘えよ」
優しく背中を撫でると少しずつ落ち着きを取り戻したのか、珠羅にしがみつきコクコクと小さく頷く愛憐。
しばらくして弥蛇が、コップを持って戻ってきたので、それを受け取り愛憐に飲ませる。
「どうだ? 少し落ち着いたか?」
「はい。取り乱してすみませんでした」
傍にいた弥蛇にコップを返して、椅子に座って深呼吸をする。
「愛憐殿、大丈夫ですか?」
「はい。もう大丈夫です。迷惑かけてすみませんでした」
いつの間にか客間に戻ってきた華蛇瑠に、愛憐は椅子から立ち上がり会釈をした。
「華蛇瑠殿、妻は私たちと共に、今後について話をしたかったそうですね。私は、妻にはのんびりと過ごしてもらいたいのだが……。ですが、本人も言うように大丈夫です。政策について妻にも同行させて構いませんか?」
「なるほど。私としても、愛憐殿からも知恵を拝借できれば、この国をどう繁栄させるかヒントが得られるかもしれないですし。この後、魔法使いの那蛇が愛憐殿にも使えるハーブについて教えたいと言っているので、もし興味があればどうですか?」
こうして、愛憐にこちらの世界について触れる機会を与える事で、ホームシックにならないよう提案をしてきた。
愛憐は、仁の世話係だけでは退屈だと、あちらの世界にいた時から興味があるハーブ等を教えてもらう事に意欲が出てきた。
愛憐が那蛇からハーブ等の知識を学んでいる傍で、珠羅たちは羅宇と子霧の今後について話し合いをする。
そこへ、仁たちが戻ってきたのだから、のんびりと会議をしている場合でなくなった。
「陛下、華蛇瑠様、ここへ戻る途中に、怪しい者たちの姿を見かけました。できれば、愛憐様たちを安全な場所へ移されたらよろしいかと思います」
真顔で浪が話すのでただ事ではない事を、二人の陛下は察した。
「我のご飯が……」
「お前は危機的状況を、もう少し把握する必要がある。愛憐様、まずは避難して下さい」
等と話していると、奥の部屋からキャアアアという悲鳴が聞こえてきた。
「仁、腕試しの時が来たぜ! 俺たちは様子を見てきますので、早く姫を避難させて下さい!」
「わかった! 我の兵も動かそう! 愛憐殿、こちらからお逃げ下さい!」
言われるまま、愛憐は逃げる事にした。
「珠羅様、華蛇瑠様、どうかご無事で! 仁、任せたよ!」
「はいニャン! 流宇も行くニャン! って、もう行ったのかニャン! 我を置いて行くにゃああああ!」
小さな猫剣士は、小刀を振り回しながら走って行く。
華蛇瑠の指揮のもと、子霧の兵たちがドドドと門から出ていく。
一体、どうなってしまうのか?
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