旅先で何が起きている?

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旅先で何が起きている?

 子霧に来てさほど日にちは経っていないのに、なぜか騒がしくなってきた。  愛憐は、華蛇瑠たちの無事を別の部屋で祈るしかできない。  愛憐の傍には、弥蛇と那蛇がついている。  那蛇が、何やらぶつぶつと囁きながら、スティックを振りかざしている。  弥蛇は、愛憐の手を優しく握って大丈夫、大丈夫と優しい声で宥めている。 「きっと、小さな猫剣士たちも、必死に戦ってくれている事でしょう。愛憐様に手伝って欲しいのです」 「弥蛇さん、私なら大丈夫です。ありがとうございました。手伝える事なら惜しみなく力を貸します」  弥蛇が手を離してくれたので、那蛇の傍へと近づいた。 「私が呪文を唱えている間、このすり鉢の中のハーブを擦って皿に盛りつけて下さい」 「わかりました」  愛憐は、胡麻でも擦る要領でハーブを擦り始めた。  愛憐は、ハーブを擦り終えると言われた通りに皿に盛りつけたら、那蛇はハーブから染み出したエキスを部屋の四方にスポイトみたいなもので数滴垂らしている。 「助かりました。魔除けに効くハーブの香で満たされたこの部屋には悪いものはつきません。皿に盛りつけてくれたハーブを、部屋の外へ置きます。これで大丈夫です」  そう言って那蛇はハーブが盛りつけられた皿を部屋の外に設置して、満足げに微笑んでいる。 「そうなのですね。ハーブに意外な役目があるとは知りませんでした」  愛憐は感心したのだ。 「万一に備えて、薬用のハーブも用意しておきましょう」  何種類のハーブを擦ると、小瓶にハーブから染み出した液を注いでキュッと蓋を閉めた。  その頃、宮殿郊外では男たちが戦っている。 「子霧の王様よ、よく聞け! 今宵、あの女をかっさらう! そして、そこの黒い小さい猫も一緒に、だ!」 「なんで愛憐さんも我もさらうニャン? なんの得にならないから無駄だと思うニャン。そもそも、華蛇瑠さんは関係ないニャン」 「え……違うのか? だが、貴様らをさらうのはわがまま王子が、一目惚れしたからだ。悪く思うな!」 「いや、盛り上がってるとこ申し訳ないのだが、愛憐は私の妻だ。それから、その子猫剣士は、あの猫神様である寛様の子息故、傷をつけるわけにはいかぬ」  珠羅の剣裁きは見事なものだ。 「ちょっと待ってくれ。ところで、貴殿は名をなんと言うのだ?」  剣を交えるのを一時中断して男は、珠羅に怪訝な顔をして聞いた。  「申し遅れたが、私は羅宇の次期皇帝の珠羅と申す者。貴殿の名も伺って構わないか?」  パチンと鞘に剣をおさめて珠羅は聞いた。  つとめて冷静な対応を心掛けて、相手を刺激しないようにしている。 「俺は、仕夢(しむ)の王子に仕える椎欄(しいら)と申す者。こちらこそ、自己紹介が遅れてしまった事、済まなく思う。我が仕夢王子の神螺(かみら)様より、どうしても一目見たいと仰るのだが、珠羅様の妻ならば、諦めてもらう方向に話をしてみます」  椎欄も薙刀を仕舞った。 「椎欄さん、あの……思い出した事があります。この小さな猫剣士は、先ほど、珠羅様が仰った猫神様の子息の仁様ではないでしょうか?」 「我は、どこまでも有名なのニャン? 確かに寛の息子の仁ニャン。愛憐は使だから、諦めてくれないと困るニャン」  ここは、あえて芝居に出ようというのだろうか。  なんだか話がややこしくなってきた。 「全世界の者が、猫神様の寛様の事は存じ上げているかと思いますが……。先ほど、珠羅様は、愛憐さんの弟のような大切な存在だと仰ってましたが、立場が異なるから解釈も違ってくるのは仕方ないのでしょう。それは気にしてませんがね。こうなると、戦う意味もなくなりましたので、我々は撤退する事にします」  お手上げだというポーズを取り、椎欄は他の数名の兵士に目配せをしてクルリと身体の向きを変えて、その場から去っていった。 「俺からしたらわけわかんねぇんだけど、何はともあれ、みんな無傷でよかったな。陛下、ここは俺たちも引き上げましょう」  浪は、疲れきった仁を抱っこして珠羅の指示を待っている。 「華蛇瑠殿、あちらも戦闘を終えたようなので戻りますか」 「そうしましょう。宮殿で待っている愛憐殿へ無事の報告をせねばなりませんね」  二人の陛下が歩き出したので、浪たちもあとに続いて宮殿目指して歩き出した。  
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