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愛憐は、自分も何となく頭が重たいと言い薬を飲み、珠羅にも薬を飲んで貰うことに成功した。
目の前で妻が飲めば夫としてそれに倣うしかない。
「傍におります。珠羅様、おやすみなさい」
「ありがとう、おやすみ」
頭重という事もあって、珠羅は今夜は愛憐を抱くのを諦めた。
けして、浪に言われて子作りをしてみたいとかではなく……などと心の中で言い訳をする珠羅だった。
セミダブルなので、華奢な愛憐が隣で寝ても余裕はある。
布団の中で愛憐が、手を握ってきた。
(な、なんという可愛い! 私は愛憐のために、国のために倒れる事は出来ぬ!)
珠羅は力強く握り返した。
翌朝、夫婦揃って客間に現れた。
「おはようございます。仲がよろしいようで羨ましいです。そろそろ、朝食を運ばせますね」
華蛇瑠が鈴を鳴らすと弥蛇と那蛇が部屋の外に待機していたのか、ドア先で華蛇瑠と二言三言会話を交わすと出て行った。
「おはようございます。朝食が楽しみです。さて、仁たちも起こして来ないと」
「そうですね、私、仁たちを起こして来ます」
愛憐は、会釈をするとパタパタと部屋から出て行き、朝だよーと部屋の外から声をかけている。
その声が筒抜けで、華蛇瑠と珠羅は目を合わせて笑った。
「元気のある奥方ですね。私も、いつか妻になる人に出会えたら、挨拶かねて羅宇に伺います」
朝食が運ばれて来て、眠たそうな仁を椅子に座らせた愛憐も、珠羅の隣に座った。
「美味しそうニャン」
仁は鼻をくんくんさせている。
「こうして食事を共にするのも、これが最後なのですね。少し寂しくなります」
「同じ気持ちです。よく味わって食べ……こら、お前は待つという事が出来ないのか」
「仁様が食べられたので、我々もいただきましょう」
「美味いニャン!」
「お前は後から話がある」
「流宇が話って珍しいニャン。わかったニャン。聞いてやるニャン」
流宇が、実は父猫の化身だという事に気付かない仁は、はむはむと食べるのに忙しそうだ。
浪を含め大人たちは談笑しながら楽しく最後の朝食を食べていた。
「すっかりお世話になりました。華蛇瑠殿、侍女の方々、また伺いに来ます」
「珠羅殿、今度お見えになるときは、もしかしたらもう一人増えているかもしれませんね。我々もいつの日か伺います。では、道中気をつけてください」
門の前まで見送りに来てもらい、愛憐なんかは別れが惜しいのか弥蛇たちと抱き合ってメソメソしている。
「愛憐様、また今度、魔法など教えます。だからどうか泣かないでください。お手紙も書きます」
「二人の事も、子霧陛下の華蛇瑠様の事も私はけして忘れません。また会いましょうね」
涙を拭いた愛憐は、笑顔でぶんぶんと手を振ったら珠羅の隣に急いだ。
羅宇目指して一行は馬車で向かう。
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