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「その方とお話してみなくちゃ」
「私には無理よ」
可憐は、小さく頭を振る。
「意識しちゃう?」
「そう。すれ違うだけでも、多分、心拍数上がりそう」
可憐は、自分の左胸を押さえながら話す。
可憐が悩みを相談しているとは知らず、浪が映像化した生前の記憶らしきモノを、愛憐はじっと見つめている。
「優以ちゃん、ここに来たんだ?」
「うん! お兄ちゃんと遊びたくて……」
「お兄ちゃんね、遠くに引っ越してしまうから、もう会えないんだ。それに、生まれたばかりの子猫たちをどうしようか悩んでる」
優以にお兄ちゃんと呼ばれた少年は、両手で段ボール箱を持っている。
「わぁ、可愛い。お兄ちゃん、育てるんだよね?」
優以は、まさか捨てないよね? という目で少年を見つめている。
「まぁね。多分、育てる事になるよな。親に見つかったら……その時は、誰かに委ねるつもり。親が呼んでるから、またね! とりあえず、一時的にここに避難だぞ。たまに餌あげにくるから」
みゃーみゃー鳴く子猫たちを、ボロい誰も住んでいない家の軒下に段ボール箱を置いて走って行った。
優以は、段ボール箱を枯れ葉などで隠した。
「ここに来たら、お兄ちゃんにも会えるし、君たちに餌持ってくるね」
映像は途切れて、前の映像と繋がりのない別な映像が写し出された。
「お前ら、元気だったか? ごめんな、親がダメだって……。これが最後の餌だぞ。仲良く食えよ?」
段ボール箱の中からひときわ小さな黒猫の赤ちゃん猫を抱き上げて、少年は直接餌をあげる。
そして、断片的な映像に切り替わり、キキキキキィィィという派手な音と共に、何かが宙に浮く。
そうかと思えば、思い切り飛ばされた少女が俯せのまま動かないが、その腕の中にはあの黒猫の赤ちゃん猫がみゃーみゃー鳴いてるのだ。
そこで映像が切れた。
「愛憐さん、何か思い出せました?」
浪は、愛憐の額から手を離すと顔を覗き込む。
「私……優以って名前の女の子だった。気になったのは、お兄ちゃんと呼んでいた少年が誰かという事」
「それ、俺です。仁に、めちゃくちゃ怒られた事あったじゃないですか。覚えてます?」
子霧に向かう途中、ちょっとした騒ぎがあった事を言っているのだ。
「ええ、覚えているわ。仁は、捨てられた事をずっと根に持ち続けていたみたい」
愛憐が言うと、浪は、はにかんだ。
「あのちびっこの猫パンチ、あの時は効きました。あ、話それたけど、そのお兄ちゃんは、今はこんな姿ですけどね。華蛇瑠様のところで食べたカレー、一度だけ優以ちゃん……あ、今は愛憐さんが俺に作ってくれた事あったんです」
「私がお兄ちゃんに? 生前の記憶がほとんど抜けているから、なんとも……。そう言うならそうなんだね。だから、懐かしいって言ったの?」
「ですね。あの映像見せてよかったんですかね?」
「よかったのかも。仁がいたら猫パンチ炸裂されてたね。あ、そういえば、私の侍女の可憐が、貴方が気になるみたいなの。だからどうって事ないけど、一応ね。今の話、浪の内側に留めておいて」
などと話していると、お腹空いたニャンと仁の声が聞こえてきた。
「俺、戻りますね」
「きょうはありがとう。貴重な体験できたわ」
「いえ、お役に立てたなら光栄です。失礼します」
ペコッと軽く頭を下げたら浪は、部屋から出て行った。
浪と入れ代わりに仁が、部屋に入ってきた。
「愛憐さん、浪がなんの用だったニャン?」
「昔話に花を咲かせてたの。仁の餌、持ってくるから待ってて」
「早くしてニャン。みっちり扱かれて、我はいつも以上にお腹空いたニャン」
「ねぇ、そろそろ夕食時ね。珠羅様も一緒のお部屋で食べる?」
「……抱っこしてニャン」
歩いて来たのに、愛憐の足元ですりすりして甘える。
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