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どれだけ時間つぶししながら、可憐が来るのを待っていたのだろう。
ぐずり始めた赤ちゃんをあやすように、愛憐は仁をなだめていた。
「遅くなってすません! 食事の用意ができました」
可憐が、部屋の外で声をかける。
「いえ、いいのよ。仁、あと少しの辛抱だからね」
仁を抱っこして背中を撫でながら、愛憐は食堂へ着くまでなだめ続けた。
「珠羅様、お仕事お疲れ様でした」
「どうにか片付いた。愛憐も、疲れたであろう?」
「いえ、私は大丈夫です。珠羅様、ちょっと相談があるので、お部屋に行っても大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。私も、ちょうど話があったので、食事が済んだら来ると良い。その前にいただくとしよう」
珠羅が、食事前の挨拶をしてから食べるというルールが少し前からできた。
仁は、よだれを垂らしながら、珠羅の挨拶が終わるのを待っている。
ごねたりする事もあるが、琉宇の指導もあってか先に食べる事はしなかった。
挨拶が終わるとすぐに餌にがっついたが、お腹すかせて愛憐の部屋に来てからかなり待ったので、大目に見る事にする。
それにしても、仁はずっとこのまま子猫なのだろうか。
神様の世界は年を取る事はないのかな?
食事は、談笑しながら楽しい時間を過ごした。
空いた食器などは可憐など侍女が片付けてくれる。
仁は猫なのにお風呂を好むので、珠羅との時間を過ごすのは、仁のバスタイムが終わってからになる。
「愛憐さん、我といるの楽しいかニャン?」
「楽しいよ。この宮殿のマスコット的存在だし、世話するの苦痛じゃないよ。どうしたの?」
「いや、なんでもないニャン。剣士は、時には戦いに参加するみたいだから、我と少し離れる事もあると思うニャン。だから、愛憐さんは楽しいのかなって」
「留守を守るのは、私の役目。珠羅様と共に戦いに出る時は、笑顔で見送ると決めているの。仁は難しい事は考えなくていいの。ほら、ふわふわになった」
タオルで水滴をある程度拭いてからドライヤーで乾かすとふわふわになる。
「ありがとうニャン。我はもう寝るニャン。おやすみニャン」
「おやすみ。あしたは寝坊したらダメだからね」
愛憐の言葉を聞いているのかいないのか、寝息を立て始めた子猫は、耳だけピクピク動かしていた。
仁が寝たのを確認すると、愛憐は珠羅の待つ部屋に向かった。
(緊張するなぁ)
愛憐は、部屋のドアの前で深呼吸をすると、軽く二回ほどノックをした。
中から、入るよう促す声がしたのでそっとドアを開けて中に入り静かに閉めた。
「私に話とは?」
「今回の旅行で小耳にはさんだことが気になって……。珠羅様は、その……私たちの子どもが欲しいのですか?」
小さな円卓を挟んで遠慮がちに椅子に座っている愛憐は、小首を傾げてうるんだ瞳で見つめている。
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