モフが迷い込んだ

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 仁に軽く自己紹介をした美羽。 「あの、私の事忘れてません? 子霧から来た魔法使いの那蛇ですけど。豹の母子を連れ帰っていいのですね?」  存在をアピールするように咳ばらいをして話したのは那蛇だった。 「忘れていたわけではない。存分にもふったので貴殿に返そうと思っていたのだ。愛憐も、気が済んだだろう?」 「はい、そうですね。引き止めてすみません、那蛇さん、お待たせしました」 「また遊びにいらしてください。では、美羽たち母子を連れ帰ります。一緒に箒に跨がって」  箒に跨がった那蛇がそう言うと子を抱っこした美羽は、再び珠羅たちに会釈をすると那蛇の後ろで箒に跨がった。 「お気を付けください。では、また」 「お元気で。それ!」  那蛇が地面を一蹴りしたらあっという間に空に舞い上がって、子霧の方向へ向けて行ってしまった。 「わあ、すごい! 私もあんな魔法のスキル身につけてみたい」  愛憐は、瞳を輝かせた。  スキルを身につけていない愛憐は、自分に持っていないモノを持っている人などを羨ましく思ってしまう。 「魔法ってそんなにいいかニャン? 我の世話するよらも?」 「仁、何を嫉妬しているの? きちんと世話をしているでしょう。でもね、一度でいいから空を飛んでみたいなって思うの」  猫姿の仁を抱いて背中を撫でながら話す。 「そういえば、愛憐は仁の世話係であったな。それも立派なスキルだと思うが? 確かに空を飛んでみたい気持ちはわからなくはない。一度、私も魔法スキルに挑戦した事があったが、素質がないと言われて諦めた」  皇帝になった珠羅は、まだ皇子だった頃はあれこれスキルを身につけようとギルドに通っていた過去があったという。  和やかな雰囲気で一日を締めくくろうとしている。  珠羅は、愛憐に癒しを求めて来た。  つまりは、夫婦の時間を共用したいという事。  沙吏殿の寝室の照明は、ほのかなランプの灯で暖かみと癒しを与える。  珠羅に優しく頭を撫でられると、これが合図となってお香の香にも癒されながらも、視覚でも癒しを求めてくる珠羅を、愛憐は可愛らしいと思ってしまう。  この空間には邪魔する存在はいない。  一日の出来事を語りつつ、愛を育むのだから、なんとも幸せな時間なのだろうか。 「珠羅様……、私は幸せです」 「それは私も同じだ。習い事がしたいなら応援しよう」  額に口づけが落ちると、珠羅の愛憐を見つめる瞳は雄を宿していて、これから愛を注がれる事がわかると愛憐は雌の瞳になる。  愛しい人と肌と肌が触れ合う事は、一日の疲れが吹き飛ぶと珠羅はにこりと微笑んだ。
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