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愛憐、体調不良?
羅宇に来てどれくらいの月日が流れたのだろう?
愛憐は、ぼんやりとそのような事を考える。
部屋で、珠羅と食事を共にする事にもなれてきた。
「おはようございます。朝食を持って来させますね」
「おはよう。いつも済まない。仕事前の愛憐が煎れる茶は、私はとても気に入っている」
「嬉しいです。ちょっと待っていてください」
部屋のドアをノックした音がしたので、愛憐はそっとドアを開けてみる。
「本日のお食事は、どうなさいますか?」
可憐が、ワゴンで運んできて部屋のドアの脇に置いている。
「どれどれ……うっ」
どのような料理かと顔を近づけた瞬間、愛憐は急に吐き気を催した。
「大丈夫ですか?」
急にトイレへ駆け込む愛憐に続いて可憐が入っていき、背中を優しく撫でている。
えづいて苦しそうにしていた愛憐が、洗面化粧台から顔を上げて私は食べられそうにないけど、珠羅には出してあげてと伝えた。
「珠羅様、愛憐様が体調不良で食べられないそうです。ですが、珠羅様にはきちんといただくよう言伝を預かったので伝えました。用意致しますね」
ガラガラとワゴンを引いて部屋の中に入り、せっせと朝食を用意していく。
「ちょっと待たれよ。体調不良って聞こえたが、愛憐は大丈夫か? 医者を呼んで来させよ。私の朝食の用意等より、そちらを優先致せ」
愛憐の姿が見えないだけでなく、具合が悪いという言葉を聞いて的確に指示を出した。
「あ、はい! 愛憐様ならおトイレかと思います。医者を呼んで参りますが、医者が来るまでは、心配だろうけど少しくらいお腹に入れてくださいね? そうしないと、愛憐様が怒りますよ?」
可憐はそう言って慌てて部屋から出て行った。
可憐と、これから稽古に行こうとした仁たちが鉢合わせたのだった。
「愛憐さんにご飯頼むニャン」
「馬鹿か、お前は。こんな時に飯の事など……。可憐さん、愛憐様に何かあったのですか?」
可憐のただならぬ様子に気づいた浪は、軽く仁の頭をこつきながら聞いた。
「体調を崩されたみたいで、お医者さんを呼びに行くところです」
「可憐さんの足では、あそこの名医にたどり着くのに時間がかかるから、俺がひとっ走り行って来ます。可憐さんが付き添ってあげてください。同性同士の方が話しやすいでしょうし。珠羅様には事情説明したら理解してくれますよ。琉宇は仁を頼んだぜ」
そう言うなり浪は、後宮から素早く出て行って名医を目指して走っていく。
可憐は、浪の気の利いた判断力はすごいと思ったが、とりあえず珠羅に説明するのが先だと思い、沙吏殿へと急いだ。
確かに自分の足では、早くに名医にはたどり着く自信はなかったので、浪には改めて感謝した。
(どうか、愛憐様の容態が良くなりますように……)
そう祈りながらも、ある仮説を立てる。
もしかしたら、妊娠したのではないかと。
珠羅と夫婦になってかなり月日が経っているのだから、妊娠しても不思議ではない。
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