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どれくらい時間が経ったのだろうか。
可憐から浪が名医を迎えに行っている事を聞いてから、だいぶ時間が経ったように感じている。
午前中の政務は保留にしてまで、愛する妻の容態が悪化しないよう傍に付き添って、水を飲ませたりしている。
部屋までこちらですという浪の声が聞こえるから、もう間もなく医者がこの部屋に到着する事は間違いない。
「待っていた。浪、ご苦労だったな。いつもありがとう。妻はこの部屋で休んでいる」
「陛下、くれぐれもご無理なさらないで下さい。俺はこれで失礼します」
浪は、部屋の脇で待機していた可憐に気づき、医者が来たから後は任せて持ち場に戻ろうと言って手を差し出した。
「貴女が倒れては、愛憐様が心配してしまうだろう。きっと気づいたんだろ? 愛憐様がもしかしたら……って可能性に。仁の世話はしばらくは俺が見てもいいんだけどね。可憐さんの仕事が増えても困るんだよな」
「ありがとうございます。浪さん、私なら歩けます。このようなところを見られたら……」
両陛下の部屋から出た二人は、渡り廊下で話をしている。
「腰が砕けたように見えたんだけど、大丈夫ならよかった。じゃ、ギルドに向かうわ」
「新しいスキルを身につけるのでしょうか?」
「まぁね。愛憐様を諦めきれないいつぞやの王子様が、羅宇に向かっているらしいから、それに備えておきたいだけ」
ひらりと手を振ると、そのまま中庭を突き抜けて行ってしまった。
なんとも戦闘オタクなところがある浪だ。
愛憐の体調不良が妊娠だとしたら、出産して育児に専念する事になるし、珠羅は愛憐を誰よりも溺愛しているのだから、重要な任務以外は浪に任せると言っているのだ。
琉宇もいるが猫神様の上に、仁の父親だから今後の指導に熱が入るだろうとの事。
ならば、雑魚程度は自分が食い止めるほかにないのだ。
仁は、少しずつ剣さばきは様になってきたと言っても、子猫のまま成長しないので、体力には限度というのがある。
ギルドの受付嬢からも、何かと声はかけられるのだが、浪は可憐に想いを寄せていて、それ以外は相手にしないと決めている。
「今回はどのようなスキルを身につけるつもりですか?」
「心を操れるスキルってないですか?」
浪にある考えが浮かんでいる。
子霧での出来事を思い出し、あの男の心を操る事ができたら……と。
珠羅が、愛憐は妻だと言っても完全に諦めてなかったのだから、どれだけしつこいのだろうか。
生前では、愛憐からお兄ちゃんと慕われていた自分が、兄として妹を守るのも悪くないとも考えている。
「無くはないですよ。よほど集中力が必要になってきますから、長期戦には向いていないかと思われます。浪さんは、長期戦よりすぐに片付く戦いの方が性に合ってそうですね」
そう指摘されて、浪は自分の短所を分析されているのだと気づいた。
なんとも恐ろしい女である。
なおさら、彼女にはしたくはないなと思う浪だった。
「あまり意識を集中させないで、相手にするのも馬鹿らしいと思わせるスキルならご用意できますよ?」
「それをください」
浪は、このあとすぐに実践できる広場へ案内されて、師範から伝授してもらうのだ。
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