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ご懐妊
医者が診察に見えた日に、珠羅が一段落ついて部屋に戻って来た時、真っ先に体調の事を心配されたので、もしかしたら、授かったかもしれないだろうという事を伝えてみた。
「体調不良の原因がわかってよかった。というか、私たちのこどもを身篭ったというのか? 愛憐、あまり無理するな。少しでもシンドイと感じたら身体を休ませてくれ」
「気遣いありがとうございます。ほぼ間違いないとの事です。ただ、あの医者は私は苦手です。夫の仕事最中に呼べと言ってきた時は、相手の都合を考えない人だという印象を持ちました。わがままかもしれないですけど、妊娠が確実だとしても今後の事を考えると、不安な気持ちになるのです」
「私も、名医を探してみよう。愛憐には安心して受診をしてほしい」
「珠羅様、ありがとうございます」
愛憐は、ぽろぽろと涙を流してしまった。
これほどまで、自分は珠羅に愛されているのだとわかって、胸が熱くなったのだ。
「愛憐、どうした? 苦しむのか?」
「いえ……、珠羅様に愛されているのだと、改めてわかって嬉しいんです。ところで、きょうはお仕事は終わったのですか?」
愛憐は、こんなところで珠羅を引き止めてしまっているのでは? そんな疑問が湧いてきた。
「だいたい片付いている。私の心配をしてくれて嬉しいが、今は自身が大切な時だろう。もし、少しでも食べられるなら、一緒に食べて構わないか?」
「はい、ご一緒させてください」
夕飯を食べながら、珠羅は子霧の華蛇瑠が、近々、こちらに来る事を伝えた。
珠羅は、近隣国との交流を途絶えさせる事なく続けているのだと、話の内容から愛憐は察した。
珠羅を知れば知るほど、愛憐は愛おしさが増していく。
「華蛇瑠様との再会、楽しみにしています。お茶のおかわりはいかがですか?」
「もう一杯だけいただこう。早くてあしたにでも、きちんと診察をしてくれる医者を連れてこさせる。私が行ければいいが、外せない仕事があるから、浪に任せている。チャラく見えても目利きは確かだから信頼しているのだ。あまり遅くまで起きていると身体に障るかもしれないから、横になったらどうだ?」
「そうですね。横になります。お休みなさいませ」
愛憐は挨拶を済ませると寝室に向かった。
やや遅れて、珠羅が隣に入って来た事はわかった。
布団の中で、珠羅は愛憐の手をそっと握って来た。
彼なりに、愛憐を不安にさせたくないという思いなのだと察した。
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