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ある休日、珠羅も一緒に産婦人科医から、愛憐の妊娠報告を聞いた。
「愛憐、本当なのか? 私の……いや、私たちの子を授かったというのは?」
「はい。数日前に、こちらの産婦人科医に診てもらったら間違いないとの事です」
愛憐は、頬をほんのりピンク色に染めた。
「陛下、現在は愛憐様は妊娠初期ですので、吐き気がしたり、いらついたり、とにかく、情緒不安定になりやすいです。安定期に入られたら気持ちも穏やかになるので、どうかご協力願いませんか?」
産婦人科医は、まっすぐ珠羅の目を見て話す。
「もちろん、協力するつもりだ。二人で乗り換えていこうと考えている。今年中には生まれてくるのか?」
珠羅は、どうやら赤ちゃんは数ヶ月経てば生まれてくると思っているらしいので、産婦人科医は、人間の赤ちゃんは母親のお腹の中で、約十か月育てられてから、産声をあげて世に出てくるのだと説明した。
「陛下、来年の春先には御出産予定でございます。改めておめでとうございます。愛憐様、育児日記をつけられるとよろしいかと思いますので、これを置いて行きますが、何か困った事があったらいつでもお呼びくださいませ。それでは、私は失礼いたします」
産婦人科医は、お見送りはここで大丈夫だと言って部屋から出て行った。
「愛憐……私や、可憐などにできることあれば、遠慮なく伝えると約束せよ。よいな?」
珠羅は、愛憐の頭を優しく撫でた。
「はい、約束します。初めての事ばかりで戸惑うかもしれないけど、珠羅様と一緒なら乗り越えていけます。これからも、よろしくお願いします」
愛憐は、ペコリと頭を下げた。
「愛憐さん、お腹すいたニャン」
先ほど、可憐からきちんと餌を与えてもらわなかったのだろうか?
「仁よ、猫神様のお子さんだからと私は甘やかす事はせぬぞ。愛憐は、お腹にとても小さな命を宿したのだ。餌は可憐か浪からいただく事だ。可憐からあまりもらわなかったか?」
珠羅は、目線を合わせるために仁を抱っこして話す。
「くれたニャン。でも、少ないのニャン! 愛憐さんは、お腹に赤ちゃんいると言ったけど、我の面倒くらい見てニャン?」
やはりというか、おむつがまだ外れるか外れないかくらいの人間の子供並の考えしかできない仁には、言い聞かせるのは時間が必要かもしれない。
「愛憐は、仁の事は大好きだが、仁の生え変わる毛を吸い込むとお腹の中の赤ちゃんが、愛憐を通して毛を吸い込むと病気になり生まれて来ないで亡くなる可能性があるのだ。仁の友達が、この世に誕生しないのは、どれだけ悲しい事か……わかるか?」
珠羅の半ば脅しに、仁はブワッと涙を浮かべて鳴き声をあげる。
この鳴き声を聞いて駆けつけてきたのは、猫姿をした琉宇だった。
「シャー!」
琉宇は、相手が陛下だろうと我が子が鳴いた理由はどうあれ容赦ない。
「琉宇君、待って! 珠羅様は悪くないの。私が妊娠したから、仁にそれを教えていたら鳴き声上げてしまって……」
鋭い爪を珠羅の腕に振り下ろす寸前、愛憐が間一髪というところで事の有様を教えて、どうにか怒りを抑えた琉宇。
「仁、愛憐様と離れるのが嫌なのか?」
「そうニャン。我の世話係なのだから、世話係放棄はダメニャン! 琉宇から言ってニャン!」
また半ベソをかきはじめた仁に、琉宇からママ猫の話を聞かされた。
「実は、仁のママ猫はお前を妊娠したとわかった時、必死になってお前を護ってきた。だから、愛憐様も同じくお腹の我が子を護るのが役目。だから、我々の毛を吸い込むと人体に影響を及ぼす。お前は、生まれてくる陛下と後宮妃のお子さんの兄になるのだ。愛憐様の侍女の可憐さんに、もう少し餌を多くもらうよう伝えなさい」
「琉宇は、どうしてママ猫の事詳しいニャン?」
長い話は理解できない仁は、ママ猫に詳しいところだけを聞き取り、琉宇に説明しろとねだる。
仁への説明はあとからするとして、後宮のネコ耳姫は羅宇に明るいニュースを持ってきた事には違いなく、珠羅は近々、発表をしたいと言い出した。
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