皇居に入る

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 二人と一匹(くつろぐ時は普通の子猫になる)は、用意された食事をいただきながら、他愛のない話に夢中になる。 「仁様はなぜに剣士になられたのだ? しかし、まだ見習いのようだが?」 「我は、命の恩人の姫様を守ると決めたからニャン。それに、カッコイイのニャン」  ハムハムと愛憐の足元で、皿に入れられたサバの味噌煮を美味しそうに食べている。 「姫様と言うのは愛憐様の事を言っておられるのかな?」 「その通りニャン。珠羅様は奥方はおられるよニャン?」  子猫の首を傾げる姿は、実に可愛らしい。 「食事中に失礼するぞ。どうも我慢ならんのだ。行儀悪いと思うが……仁様をもふもふさせてもらいたい」  湯飲みでお茶を飲むと珠羅は立ち上がり、仁の傍でしゃがむなり仁をもふり始める。 「珠羅様は、仁以外にペットにされている動物はいないのですか?」  仁をもふっていた珠羅だったが、満足したのか席に戻り咳ばらいを一つして、小動物が数匹いると教えてくれた。 「この皇居には、何種類の動物とか、わたしのような獣耳の種族がいるのですか?」 「沙吏殿以外にも殿があるが、そこに住まう兄上と兄上の妻等は、馬とモルモットを飼っている。獣耳の種族は、先ほどの付き人以外には二人くらい在席している。そういえば、先ほどの仁様の質問への答えだが、我はまだ一人もめとってはおらぬ。このような性格ではなかなか……」  苦笑しながら答える珠羅に、そうですよねとは言えずに「いつか素敵な人に出会えると良いですね」と、当たり障りのない事を言って、湯飲みの茶を飲み干した。 「愛憐様のような女性が、他におられるとは思っていない故、難しいかと思う。仁様は、急ぎの旅があるのだろうか?」 「ないニャン。いきあたりばったりという感じニャン。ここは気に入ったから、もう少し滞在したい気もするニャン」  チラリと愛憐の方を見つめる。 「仁が気に入ったようなので、私もしばらくの間お世話になっても構いませんか?」  愛憐の言葉に、珠羅は瞳をキラキラ輝かせる。 「沙吏殿の隣の玖荼呂殿(くちゃろでん)は、空き室なのでそこを使ってくれても構いません」  手をパンパンと叩き合図を送ると、先ほどの可憐がすぐに室内へ入ってきた。  愛憐は思った。  しゃりとかくちゃろとか、まるで日本の北海道の地名に似ているなと。  中華風な街にある皇居と、北海道と何か関係があるのだろうか。 「私が住んでいた所と地名が似ているので、初めての土地に来たとは思えません」 「そうなのか。案外、姉妹都市かもしれないな。衣食住には不自由しない生活を送るには、ここはちょうど良いと思うよ。可憐、案内して差し上げなさい」 「畏まりました。お二方、どうぞこちらへ」  可憐に倣って愛憐と仁は会釈をすると可憐の後をついていく。  
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