皇居での生活が始まる

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 翌朝、仁の悲鳴に近い鳴き声で目が覚めた。 「仁? どうしたの?」 「あ、あ、あ、愛憐さんんん、虫さんニャン!」  仁が指(前足?)を指す方に目を向けたら、そこには愛憐も苦手な虫が壁を這っているではないか。 「はっ! こういう時の為のベルだわ!」  愛憐は、ベッド脇の鈴をチリンチリンと数回鳴らしたら、きのうとは違うが、侍女がすっ飛んで来た。 「愛憐様、どうなさいました?」 「あの虫を部屋から追い出してください! 仁が怖がってます」  まさか、自分も怖がっていて追い出せないとは言えない。 「大変ですね! 任せてください! ほっ!」  うりゃあぁぁ! と侍女は掛け声とともに素早くハエタタキでバシッと仕留めた。 「念の為、虫が寄り付かないと言われるお香を焚いておきます」 「ありがとうございました。朝から用事を押し付ける事になってすみませんでした。遅れましたが、私は愛憐と申します」 「こちらこそ、自己紹介がまだでした。私は魅憐と申します。以後おみしりおきを」  そう言って部屋から出て行った。  もちろん、虫の死骸もきちんと始末してくれた。 「朝から疲れたニャン。でも、お腹空いてるニャン」  言うのと同時に、仁のお腹が鳴った。 「食事にする?」 「食べたいニャン。でも、愛憐さんはどうするニャン?」 「私も、食事はいただくから大丈夫。一緒に食べたいんだよね? 部屋に朝食を運んでもらう?」 「いいのかニャン?」  餌が入った鞄をテイテイしながら、瞳がキラキラとしている。  愛憐が部屋に呼ぼうとしたタイミングで、可憐が部屋の入口から声をかけてきた。 「愛憐様、仁様、おはようございます。お食事の用意ができましたが、部屋まで運んできた方がよろしいですか?」 「おはようございます。せっかくですから、食事をご一緒させてください。いいよね、仁?」 「もちろんニャン。行くニャン」  愛憐の足元ですりすり身を寄せて甘えて来るので、仁を抱っこして部屋から出ていく。 「珠羅様がお待ちです」  可憐が二人(というか、一人と一匹だが)を大広間に案内する。  ドア近くで可憐は、珠羅に愛憐たちを連れて来た事を伝えた。  中から珠羅の声で、中に入るよう促してくるのでそれに従い可憐は、愛憐たちを中まで連れて来た。  お互いに朝の挨拶を済ませたところで、可憐は頭を下げて大広間から出ていく。 「昨夜は寝られただろうか?」 「はい、寝られました。珠羅様、朝の用意をしてくださってありがとうございます。仁、美味しそうだね」 「そうだニャン。我のご飯もあるニャン。いただくニャン」  ここは、沙吏殿と玖茶炉殿の中間に位置する大広間だと珠羅から説明があった。  珠羅が目を細めて眺める先には、多分、仁の姿なのだろう。  子猫は、どこの世界でも万国共通で可愛いのだ。 「仁の餌等を持って来ているのですが、こちらにお世話になっている間はどこで保管すればよろしいのでしょう?」 「準備万端なようだ。そうだな……仁様が食べたいと言うのであれば、その日は部屋で愛憐様も一緒に食事をなさっても大丈夫だ。よければ、この後、一緒に散策でもどうだろう? 羅宇の事を少しばかり教えておこうと思ってな」 「はい、私も来たばかりなので教えていただけると嬉しいです。あと、仁の稽古をしてくれる方がいれば良いのですが……」  食事をしながら会話をしているので、時折、会話がストップする事もあるが、何とも上品な食事作法なのだろうと、愛憐は思わず見とれてしまう。
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