皇居での生活が始まる

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「稽古の相手に相応しい者がおりますので、後から紹介しよう」 「ありがとうございます。仁、よかったね」  仁は、食事しながらコクコクと頷いている。  ここへ来て二日目となるが、愛憐はこれといってする事がないので、珠羅と共に羅宇を散策する事にした。  その間、仁は珠羅に紹介された剣士と特訓に励む事になったのだ。 「珠羅様、いつのまに所帯を持ったのですか?」  街を散策していると商人の一人が顔なじみなのか、珠羅に笑顔で声をかけてくる。 「いえ、こちらの方は、まだ妻ではないが、ここへ来て間もないので私が道案内をしているところだ」 「そうですか。自ら案内なさるのは珍しいですね。安心に暮らしていけるようになったのも、珠羅様のおかげです」 「この国の安全を守るのが、我の仕事なのだ。何か要望があれば何なりと遠慮なく申されよ」  愛憐は、ふと疑問を感じた。  国を収めているのは珠羅の兄ではないのだろうか。  人気(ひとけ)のないところへ差し掛かった時、愛憐は感じていた疑問を珠羅にぶつけてみた。 「あの……、一つ伺ってもよろしいですか?」 「どうかしたのか?」 「この国は、珠羅様のお兄様が治めているわけではないのですか?」 「病弱の兄上では、国を治めるような大仕事ができぬのだ。兄上からも、私に託されているという事だ」 「そうだったんですか。大変な任務ですね。私に何か手伝える事があったらおっしゃってください。ただ飯を食べさせてもらうなどとずうずうしい事は考えておりません」  グッと右手で拳を作ってきりりとした顔で愛憐は、珠羅の方を見つめる。 (だって、仁でさえも一人前の剣士になりたいと言っているのに、私だってずっとお客様の顔でいるのは心苦しいんだもん。高校だってきちんと卒業していないから、できる事は限られているだろうけど、可憐さんたちのように役に立ちたい) 「頼もしいな。此処だけの話にしていただきたい。まだ、正式決定するのは先なのだが、我はいずれは愛憐様を妻にしたいと思っている。だから、あまり怪我をされるのは困るぞ」 「ええええええ? 私を妻に、ですかああああああ?」 「しっ! 声が大きい。隠居生活を送っている父上から、もうそろそろ……という打診が出ているのでな……。形ばかりの現代国王の兄上の代行を務める身でありながら、所帯を持ってもおかしくはないだろうと言われている。もちろん、愛憐が迷惑でなければ、の話ですが。魅憐も可憐もよその国から預かった大切な娘さんたちですが、彼女たちよりも愛憐を一目みた時から我は、心に誓ったのだ。くれぐれもここだけの話にしてくれぬか? 仁様にも内密に願う。仁様は、寛様のご子息と言えどもまだ幼いのでうっかり誰かに口を滑らさないとも限らないからな、まだ子猫ゆえ、嬉しい事は黙っておけないだろう。もふだからと言って許される範囲を超えてしまう可能性が高くなりかねないので、くれぐれも内密に」 「はい、わかりました。二度、念を押されておっしゃるという事は、本当に大変な騒ぎになってしまう可能性が高いという事ですね。ふふ、二人だけの秘密だなんてなんだかワクワクしましね。私の事は呼び捨てで大丈夫ですよ。いずれは妻となるのでしょう?」  愛憐が小首を傾げて珠羅を見つめると、ぎゅっと抱きしめられた。 (ちょ、どうなてるの?)  激しく打つ鼓動が珠羅に伝わってしまうと思うと、まったく恋愛経験がない愛憐は、どうしたらよいかわからなくなる。  
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