おばけ、おばけ。

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　娘の麻衣子(まいこ)は、九歳なのに非常に臆病だ。普段は一人で寝られるのに、何故か水曜日にだけ親と一緒に寝たがる時がある。何故水曜日？と疑問に思ったことは何度かあったが、最近は気にしてなかった。彼女が急に、“もう水曜日も大丈夫だと思う”と言いだしたからである。
　その理由がわかったのは、マンションに警察が来て、話を聴かれてから数日後のこと。土曜日に何気なくテレビでニュースを見ていた私は、このマンションの映像が出て眼を剥くことになったのである。お隣さんが亡くなったらしいとは聞いていたが、まさかいわゆる“惨殺”と呼ばれるほど酷い死に方であったとは。しかも。

『亡くなったのは、加藤百合香(かとうゆりか)さん二十七歳。加藤さんは全身数十か所を刃物で刺されており、いまだに左足の太ももの一部と、左手の指が数本見つからないままとなっています……。加藤さんはストーカーの被害に遭っていたということで、●月●日の水曜日の夜、ベランダから侵入した何者かによって殺害されたものと思われます。加藤さんは水曜日にシフトの休みを取ることが多く、この日も一日休日を取っていたとのことで……』

　●月●日は、娘が最後に“お母さん一緒に寝て”と頼んで来た日ではないか。
　さらに。

『警察は、加藤さんと同じマンションの同じ階に住んでいた無職・津田川庄司(つだがわしょうじ)容疑者に逮捕状を取り、現在行方を追っています……』

　津田川、なんて苗字の人物は自分が知る限り一人しかいない。
　自分達の部屋は、１００４室。
　亡くなった加藤百合香は１００３室に住んでいて、津田川という苗字の男は１００５室の住人だったはずである。

「ま、さか……」

　ここ数年、ベランダの整備をちゃんとしたことはなかった。私はテレビを消すと、恐る恐るベランダに出る。
　両隣の部屋へ繋がる敷居が壊されていると気づいて、悲鳴を上げるのはこの数十秒後のことだった。