おばけ、おばけ。

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おばけ、おばけ。

「ねえ、今日お母さんたちと同じ部屋で寝ちゃだめ……?」  わたしがそう尋ねると、お母さんは分かりやすく眉を潜めた。流石に気づいているはずである。毎週水曜日の夜ばかり、わたしが一人で“おやすみ”をするのを嫌がっているということは。  問題は一つ。お父さんとお母さんは二人で一つの部屋で寝ていること。わたしが入って三人になったらとっても狭くなってしまうということだ。 「どうして?」  案の定、お母さんは疑問を返してきた。 「時々そう言うけど……水曜日に何かあるの?まあちゃん、もう九歳のお姉さんでしょう。一人で部屋で寝るの、そんなに怖いの?」 「一人で、寝るのはいいんだけど」 「じゃあ何?」 「…………」  わたしは俯いて、それ以上言葉が出なくなってしまった。本当のことを言いたい。でも、きっとお母さんは信じてくれやしないのだ。水曜日の夜中だけ、時々――ベランダに、オバケが出るということなど。  我が家はマンションの3LDKの一室である。玄関から入ると廊下があって、廊下の両隣に二つ部屋がある。一つは両親の部屋で、一つはお姉ちゃんの部屋。お姉ちゃんはもう大人なので、夜遅くまで帰ってこないことも少なくない。今日もまさにそんな日だった。子供はちょっと遅く帰るだけで叱られるのに、十一歳年上というだけでお姉ちゃんは許されるなんてなんだか納得がいかない――いかないが、今回の件には関係ないのでひとまず置いておくことにする。  問題はわたしの部屋で、真ん中のリビングの隣にあるのだ。リビングとわたしの部屋は、外のベランダに面している。このベランダが問題なのだった。遠い部屋で寝ている二人は知らない。このベランダに、とっても怖いオバケが出るなんて話は。
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