いつも通りの光景に

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いつも通りの光景に

 高校3年の秋。 僕、竹内 徹(たけうち とおる)は、いつもどおり教室に入った。 教室に入ってすぐ目についたのは、一人の少女がいじめにあっている教室の隅だった。 「はぁ? 金すら持ってないとか使えな」 彼女の周りを2、3人の女子が取り囲み、あざ笑っている。 「ご、ごめんなさい……」 謝る彼女に聞く耳すら持たず、一人の女子が彼女の腹に蹴りを入れた。 鈍い音と「うぐっ」という苦しそうな声が響く。 それに見向きもせず、周りはただ見ているだけ。 ……僕もそんなものだ。 みんな怖くて、近寄ることすらできない。 そんな僕は、自分を惨めに思いながら、席に座った。  チャイムが鳴り響く。 いじめっ子たちは飽きたように席についていく。 それを待っていたかのように、いじめられていた彼女はゆっくりと自分の席に腰を下ろした。 机には落書き、椅子にはボンドの白いのりがあって、気持ち悪いだろうに平然として座っている。 先生は、この状況に何も言わない。 それも、これも、僕にとってのいつもどおりだった。  彼女はクラスの中でも、不運を呼び寄せると言われている少女だ。 名前は七瀬 澪(ななせ みお)。 彼女は周りに不幸を巻き起こすからと、いじめを受けていた。 不幸の内容はこうだ。 車や、自転車に轢かれそうになる、自転車で事故りかける、などのものだった。 その不運体質は、周りにも自分にも影響を与えているらしく、彼女は事故にあっても何くわぬ顔でよく、学校に来ていた。 たとえ骨折していても、大怪我を負っていても、彼女はケロッとした顔で、学校へやってくる。 毎回、近くに通りかかった人が救急車を呼ぼうとするのだが、お父さんに怒られるからと言って、拒否するらしい。 僕はそれを聞いて、昔を思い出した。 昔、彼女のようにいじめを受けていた女の子を。 助けたいけれど、僕のいる3年5組は、気の強い女子ばかりで。 少し耳障りだなと思っても、理不尽だと思っても、僕は何も声を発することができなかった。
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