変わる日常

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変わる日常

最初に聞こえてきたのは女の声だった。 「あんたのせいよ! こんな出来の悪い子、不幸な子を産ませたのは!!」 次にそれに応じるような男の声。 「お前のせいだろ!! 俺だってこんな気味悪いやつ、授かりたくなんかなかった!!」 どうやら彼女の両親で間違いないようだ。  僕は彼女が気の毒だと思った。 家では虐待で両親が喧嘩し、学校ではいじめを受ける。 そんな日々を過ごしてるなんて、どれほど辛いだろうか。 経験のない僕には、想像もできないことだった。 僕はその場をあとにしようとした。 その時。 叫ぶ声が響き渡る。 ……突如、彼女の家から炎が出て、燃え始めた。 近隣住民が外へと出てきて、騒ぎを見に来る野次馬のように集まってくる。 僕はそこで、彼女がこの場にいないことを確認した。 まだ、彼女はあの中にいる。 「澪!!!!!!」  大声で叫ぶが、やはり返事はない。 僕は炎の中、走って助けに行こうとした。 ……が、すぐに来た消防署団体の人の手によって止められてしまった。 やがて、火はすぐに消し止められた。  病室の中、彼女はきれいにスヤスヤと眠っていた。 奇跡的にも彼女だけ無傷で、両親だけ死んでしまったらしい。 出火原因は、彼女の父親が吸っていたタバコの燃えカスだったという。 心配そうに僕が彼女を眺めていると、彼女の瞼がゆっくりと開いた。 「……あれ……ここは?」 僕は安堵して彼女に寄り添う。 「ここは病院だよ 君の家が火事になって……それで……」 その先の言葉を言えずに、僕は口を噤んだ。 「……お父さんとお母さん、死んじゃった?」 そんな僕の様子を見てからか、彼女はそう言った。 やはり僕は顔に出やすい体質らしい。 「……うん、そう……なんだ」 彼女に僕がそう告げると、彼女は「そっか」と悲しそうな顔で笑った。 「……泣かないの?」 僕が言うと彼女は答えた。 「……泣いても意味ないよ、戻ってこないんだから」 その言葉で僕は、やっぱり彼女を守りたいと深く思った。 それから数分くらい彼女と話したあと、僕は病室を後にした。
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