演者

1/1
前へ
/16ページ
次へ

演者

 私は今、どうやら家が燃えて両親が死んだ悲劇のヒロイン、ということになっているらしい。 ……正しく計画通りというやつだ。 今までの不運も全て、私が仕組んだことだ。 幼い頃に車に轢かれたことも、いじめも、両親の仲の悪さも。 ……そしてあの日のことも。  珍しくお父さんがタバコを吸ってないことを確認した私は、ライターをそっと寝室から持ち出し、灰皿に残っていた吸殻に軽く火をつけて、新聞紙の上においた。 そして、いとも容易く燃えていく家の中、私は気絶し、偶然にも助けられたというわけだ。 ……別にあそこで死んでも良かったのだけど。 まぁ、なにはともあれ、あのうるさい両親がいなくなってよかった。 私は悲劇のヒロインを演じる。 いつまでも、いつまでも、ずっと。 演じ続ける。 今までも、これからも。  例え、彼にそれがバレてしまったとしても。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加