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不幸な少女は
数日後、僕は彼女が学校で一人だったのを見かけた。
放っておけなくて、声をかけようと近づくと、彼女の独り言が聞こえてきた。
「……確実に……確実に不幸にしないと……」
『不幸にしないと』
その言葉に、気が動転する。
どういうことだ?
そもそも、不幸にしないとって誰を不幸にするんだ……?
彼女は独り言を続ける。
「もっと車に轢かれて、花瓶とか植木鉢を落としてもらって、いじめられなくちゃ
あ、電車で轢かれるのもいいかも
でも死んじゃうかな……それは嫌だなぁ……
だって、悲劇のヒロインを演じられなくなっちゃう」
その言葉で僕は確信した。
あれは、あの不幸はすべて、彼女自身が望んでいるものなんだと。
「あ、でも……」
彼女はクククと笑っていた。
その顔はまさに、悪人顔だった。
僕はその場から逃げ出した。
信じたくなかったんだ。
あれが全部演技だったなんて。
幸せを望んでいるのに何をしても不幸になってしまう少女、七瀬 澪。
彼女はそんな、物語のお姫様みたいな人ではなかった。
不幸を望み、他人の哀れみを求める、歪んだ少女だったのだ。
その日から僕は、彼女と距離を置くようになった。
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