過去

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 扉を開けると、涼しい風が髪をなびかせる。 夕暮れに染まる屋上の中。 僕の目線の先には、一人佇む、彼女の後ろ姿があった。 僕は扉を閉め、彼女に近づく。 にしても、彼女はどうしてフェンスのない場所にいるのだろうか? 「……来てくれたんだ」 明るいトーンで、彼女は告げた。 でも、なんだか不気味にも聞こえた。 ……胸騒ぎがする。 「……話って……何?」 僕は恐る恐る聞いた。 「……私がいじめられてるのは知ってるでしょ?」 彼女はまだ僕に顔を見せてくれない。 後ろ姿のまま、彼女は空を見上げた。 「……話かけてくれたあの時、助けてくれるって、ちょっと期待してた」 彼女は俯いてから、僕の方を向く。 「……なのにあなたは見てみぬふりをした」 彼女の鋭い目は、まっすぐ僕を捉えていた。 「……っ……でも、でも僕は助けようと……!」 彼女にわかってほしくて、僕は弁解しようとする。 「嘘!!!! 私なんてどうでもいいくせに!!! 偽善ぶってないでよ!!!!」 彼女の声が屋上に響き渡る。 「……私、もう、死のうと思うんだ」 彼女はボソリと呟いた。 だんだんと彼女は、フェンスがない場所へと後ずさっていく。 一歩、二歩、三歩、四歩……。 「……!」 僕はとっさに走り出していた。 助けなきゃ。 そう思って。 なのに。 必死に伸ばした手は、惜しくも届かず。 彼女は、真っ逆さまに落ちていった。 それからというもの、いじめを見てしまうと、思い出してしまう。 目の前で死んだ、彼女……菜々花を。 僕は二度と、そんな間違ったことをしたくない。 後悔なんて、したくない。 だから……彼女を救いたかったんだ。 なのにあんな裏の顔……。 ……僕は、考えに考えた結果。 彼女の裏の顔を見たことを、告白することにした。 全ては彼女の人生のため。 そして、僕の後悔を消すためだ。
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