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「えっ……と」
どうしよう。鈴木さんの事は友達未満の関係だったから、しかも此処でしか会わない関係だったから、まさかこんな事になるなんて思わなかった。なんて、なんて言えば良いんだ?
焦る俺に気付いているのか、いないのか。
鈴木さんは淡々と言葉を紡いでいく。その声や口調からは、まるで俺に恋しているようには思えないんだけど。やっぱり聞き間違いか?
「高橋君のことを、多分、好き、なんだと思います。私もよく分からないんですけど」
どうやら聞き間違いでは無いようだけど、多分、とか、分からない、とか、あやふやだな。アレか。恋に恋するじゃないけど憧れ的な。
「高橋君に彼女が居るのは知っていますし、最初はこれが好きという気持ちなのかも解らなかったので、何も言うつもりは無かったのですけど。……最初に高橋君が泣いているのを見た時は、とても驚いて。正直、ちょっと迷惑だとも思いました。慰めなくちゃいけないのかな、とか。でも高橋君はそういう感じじゃなくて」
迷惑。まぁ確かに泣いている男を見たら困るのは確かだな。
「本人が気付かない涙って、子どもが同情心を引きたくて泣くのとは違って、本当に心から悲しいとか辛いとか、そういう時じゃないかなって思いました。それから……高橋君と勉強をしている時に彼女であるはずの中島さんが井尾君と親しげだった時にまた泣いているのを見て。私は、高橋君にこんな涙を流して欲しくないって思ったんです」
俺は、多分、有希以外で初めて、ルックスとか、サッカーの姿とか、そういう外見上以外の所を見て告白されている事に気付いた。有希の場合は、外見も込みで中身を知っている幼馴染みとして、そのアドバンテージを活かした告白だった。
「直人は外見もカッコいいけど、努力している姿も知っているし、なんだかんだでちょっとカッコつけの部分も知っているし、お調子者な所もあるけど、そういう所も全部引っくるめて好き」
有希はそう言った。でも。鈴木さんは、俺の弱い部分を見て告白してくれている。これって、外見じゃなくて中身に触れてくれているってこと、か?
「それでも、高橋君が中島さんを好きなことは解りましたし、こんな気持ちを告げるつもりは無かった。でも。……高橋君が浮気について尋ねて来たり夏休みについて尋ねて来たり。ちょっとだけ私に興味を持ってくれた事がなんだか嬉しくて。……そうしたら、思い出したんです。想いを告げるって勇気が要ることを。私、色々と勇気を出す必要が有って勇気を出して家族に気持ちを伝えたんです、この前。その時に。高橋君にも勇気を出して告げたいって思って。だから。今日は言えて良かった。聞いてくれてありがとうございます」
鈴木さんは、最後まで話すと少しスッキリしたように微笑んで、それで終わりにした。どうやら俺の返答とか欲しかったわけじゃなかったみたいで。ただ、伝えてくれただけ、らしい。
それなら、と俺も有希と別れた事は言わなかった。
多分、話しても鈴木さんの事だから、「じゃあお付き合いして下さい」とかそういう話にはならないだろう、と思ったんだけど。夏休みが終われば噂で知るかもしれないし、別に鈴木さんに自分の口から話す事でもない、と思って黙っていた。
「高橋君、此処で勉強出来たこと、楽しかったですよ」
多分、彼女の中でそれが俺への恋を終わらせるための発言なんだろう、と思う。俺も頷いた。
「俺も、鈴木さんと勉強会、出来て良かった」
それだけの応えなのに、何故かこの先、鈴木さんと会わなくなる関係になってしまう気がした。……胸が微かに痛んだ気も、した。
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