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「鈴木さん」
顔を見て、俺を意識したような反応をされた時。俺の中で湧いたのは怒り。だから呼びかける声も低くて怒りを表しているのを鈴木さんも理解している、ようだ。
「は、はい」
「俺に、言うことが無いか」
「い、言うこと」
心当たりが無さそうな顔をするから、腹がカッと熱くなる。彼女にとって、俺はその程度の存在なのか、と思うと苛立つ。
「鈴木さんは、俺に告白をして来て、何故俺に転校することを話さなかった」
「え、えと。は、話すこと、ですか? 私、思いは伝えようとは思いましたけど。でも高橋君とどうこうなろうと思っていたわけじゃない、し」
「鈴木さんにとって、俺ってその程度の存在なわけ⁉︎」
「その程度、というか。振られるのは分かっているし。友人でも無いし。寧ろ私が転校する事を知っても、だからなんだって言われたら……と思いまして」
それは、そうかもしれないけど。
自分でもなんでこんなに怒りが湧くのか分からない。分からないけど。どうしても何も言ってくれなかったのは、彼女にとって俺の存在がちっぽけに思えて。悔しい。
「鈴木さん、俺のこと、好きだって言っただろ⁉︎」
「でも、高橋君、中島さんとお付き合いしているし、元々友達でもないし」
「有希とは別れた!」
「……えっ」
「鈴木さんから告白される前に、有希とは別れたんだ。ただの幼馴染みに戻った。確かに鈴木さんとは友達とも言えない付き合いかもしれない、けど、何も言わずに去られる程、どうでもいい存在だったのかって」
「そ、そういう、わけじゃ。ただ、でも話して良いのか」
「話して、欲しかった。……俺、鈴木さんのこと、好きとかは思ってない。けど、俺が悩んでた時、ただ側に居る存在が心地良かった。だから。恋愛とかまだそんな気にはならないけど。でも少なくとも鈴木さんが悩んでいるなら、今度は俺が側に居て心地良いって思える奴に、なりたい。……なんか、悩んでるんだろ?」
カレシとかそういう存在になりたい、とかじゃないけど。鈴木さんをカノジョにするとか、そうじゃないけど。ただの友達ですらない存在で居たくない。俺は、今の俺の気持ちを正直にこぼす。鈴木さんに、俺の気持ちは届いただろうか。
「悩み……有ります」
鈴木さんは、俺に泣きそうな顔でそう切り出した。
それから鈴木さんは話してくれた。
父親が不倫していたこと。母親が気付いて離婚するか、不倫相手と別れるか、迫ったこと。それが高校受験が終わった頃のこと。その頃は鈴木さんは、全く気付かなかったこと。
「父は、不倫相手と別れることを選択したんです。母と別れたくないし、私とも離れたくないって。だけど」
別れたと言っていた不倫相手と結局続いていたらしく。鈴木さんが高校2年……つまり今年に入って、母親が再び気づいて、今度は離婚前提で話し合っていたらしい。それを偶々鈴木さんは知ってしまい……
「父に、汚い。不潔。って言ってしまいました。それに、私がその不倫相手さんみたいに結婚している人と恋愛関係にあったらお父さんは、どう思うの? その不倫相手さんの親は、娘がそんな不幸な恋愛をしているなんて知ったら、どう思うのかな。って言ったんです。その時初めて、お父さんは、不倫をしていることを心から反省しているような顔になったんです。でも」
ーー1度、お母さんに許してもらったのに、隠れて続けて、私にここまで言われないと反省出来ないなんて。
「そう思ったら、許せなかったんです、私が」
それで、鈴木さんのその気持ちを尊重して、ご両親は離婚を選択し、鈴木さんは母親の実家へ行くことにしたのだ、と苦笑した。
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