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「あの日……高橋君から浮気について、尋ねられましたけど。もう、その頃は父の事が解っていて。だから余計に高橋君が中島さんと上手くいってない事を知った時、母を見ているようで、辛かったんです。……いえ、母だけじゃなく、私のことでも有るように、辛かった」
鈴木さんは俺以上に大変な状況に悩んでいて。もちろん俺はそんなことを知らなかったわけだけど。俺が知らなかったから鈴木さんは俺に親身になってくれたのかもしれない。
「そう、か」
「はい」
「母親の実家って遠い、のか?」
鈴木さんは困ったように笑って県名を口にする。
「そうか。一人暮らしってわけにもいかないもんな」
「でも大学は一人暮らしをするので、向こうに居るのもそんなに長くないんですけど」
鈴木さんが受験する予定の大学を教えてくれる。もう、そんな先の事まで考えているのかと驚く。でも確かにその通りだ。俺だって大学受験するためにこの高校を選んでいる。悠長な事は言ってられない。
「もう、会えないんだな」
「そう、ですね。だから、短かったけど、此処での高校生活にお別れをするためにこの図書室に来たんです。まさか、高橋君に知られるとは思ってなかったし、会えるとも思ってなかったです、けど。
ーー高橋君、私に“好き”って気持ちを教えてくれてありがとうございました。……いつかは恋をしてみたいって思っていたんですけど。父の事が有って、寧ろ恋なんてしたくないって思っていたくらい、なのに。高橋君の涙を見て。なんだか私の方が辛くて胸が痛くなって。……まさかこんな風に人を好きになるなんて、思ってみなかったです」
確かに身近な人の裏切りを知ってしまえば、人を好きになろうなんて思えないだろう。……俺だって、有希のあんな所を見た時は、ショックだった。だけど、だからこそ有希が好きだって気付いた。でも有希と別れて、他に好きな奴なんて出来るなんて思えなかった。今も、そう思ってる。
それでも。
鈴木さんの事は、これっきりになりたくないって心の何処かで思ってる。
これから鈴木さんと、どういう風になっていくのか解らないけれど。
でも、今の俺は、鈴木さんと繋がっていたいと思うんだ。
「俺のこと、好きになってくれて、ありがとう」
「……はい」
「未だ有希のことが好きだし、諦めきれないけど。でも鈴木さんとは友達になりたい。これっきり、には、なりたくないって我儘な事を考えてる」
「……ほんと、我儘、ですね」
「そうだな」
「私は、高橋君とお付き合い、とか、全く望んでません」
「そうだろうな」
「ただ、好きな気持ちを教えてもらえた事は感謝してます」
「……うん。俺も、鈴木さんに好きになってもらった事は感謝してる。だからさ。友達……にもなれなくても、それでも連絡は取りたい」
「連絡、ですか」
「偶に何をしてる、とか、そういうだけでも構わない。ただ。俺は俺が辛い時に此処に来ると鈴木さんに会えた事でホッとしたのは確かだから。……あー、上手く言えないけど。ただ、このまま、これっきりで終わりにしたくない。それだけは強く思ってる」
「そう、ですか。……じゃあ、連絡先、交換しておきます……か?」
「うん」
そう言ってから気付いた。
昼メシを食べ終えてそのまま来たから、スマホは鞄の中。手元に無い。
焦る俺に、鈴木さんはクスリと笑って、連絡先を書いた紙をくれた。
俺はそれを丁寧に制服のポケットにしまって、手を差し出す。
「えっと?」
鈴木さんが首を傾げて俺の顔と手を交互に見るから、今度は俺が笑って。
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