見られたくない時に限って人に見られる

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 火曜日と水曜日は、いつも通りの俺を心掛けたし、有希にもじいちゃんが捻挫して……って話を伝えた。いつものように一緒に登校して。でもそうだ。いつの間にか手も繋がなくなった。俺が恥ずかしいからって手を振り払ったから。それも悪かったのだろうか。今朝、ようやくそこに気付いて、俺は有希の手を繋いでみた。 「えっ。直人、どうしたの? 急に」  繋いだ瞬間、驚いた顔をしつつも有希は然りげ無く手を引いて解いてしまった。俺は痛む胸に気付かないフリをしながら言い訳がましく言葉を振り絞る。 「有希、俺と手を繋ぎたいって言ってたのに、俺が恥ずかしがったから繋いでないだろ。偶には有希の要望を聞かないと、悪いかなって」  本当は捨てられたくないから。  そんな言葉が出かかって飲み込んだ。 「今さらでしょ? 無理しなくていいよ」  今さら。  その一言は何気ない口調だったけど。なんだか重く聞こえた。我慢、させていたのだろうか。  思えば、サッカーと勉強ばかりでデートの一つもした事が無い。彼氏だって胸張って言えるのだろうか。辛うじて誕生日プレゼントは渡しているし、バレンタインでチョコをもらえばお返しもあげた。クリスマスもプレゼントは渡したけど、部活でデートもしてない。  こんなだから有希も俺じゃなくて、井尾に気持ちが傾いているんだろうか。  でも、まだ関係を終わりにする言葉は聞いてない。だったらまだチャンスがあるんじゃないか? 「有希。デート、しないか」 「えっ。……ホントに今日はどうしたの? 初めてそんな事を言われたんだけど」  訝しそうに首を傾げる有希。 「じいちゃんが捻挫したじゃん? その時にばあちゃんにも母さんや俺にも、心配してくれてありがとうって言ってくれてさ。ばあちゃんは、夫婦なんだから当たり前だって言ってたけど。じいちゃんは、嫁でも娘でも孫でもありがとうやごめんなさいを言うのは、当たり前だって言ってた。俺、有希にそういうのがなかったなって思ってさ」 「……そう」  実際、じいちゃんの見舞いに行った時にじいちゃんが言ってた事を言えば、有希はちょっと考えるような仕草で頷いてから……緩く首を振った。 「そう言ってくれてありがとう。でも、いい。直人らしくないよ、急に、そんな事ばかり言ってさ」 「……そっか」 「うん。気にしなくていいから」  それは、井尾とデートしているからか?  その一言も結局飲み込んで。変な空気のまま、2人で登校した。木曜日は学校の方針で何処の部活も休みだ。同好会も含めて休み。そして明日からは期末試験5日前で部活動停止期間に入る。再開は当然期末試験最終日。およそ10日間の部活動停止期間に入る。 「有希、期末試験の勉強、どうする?」  今までは、平日は互いの友人同士で勉強をしていたが、土日は互いの家か図書館で勉強会をしていた。今回もそのつもりで尋ねれば、有希は「うん……」と曖昧に答えてくる。 「後で、連絡するね」 「分かった」 「今日、帰り、友達と勉強していくから一緒に帰れない」 「おう。じゃあ明日の朝な」  教室前で別れて、俺は有希が自分のクラスに入って行くのを見送る。こっち、見ないかな。って思うのに、有希は全く俺を振り返ってこなかった。少しずつ少しずつ、こうして気付いていく。有希との関係が微妙にすれ違っている事に。 「どう、するかな」  小さく呟いて溜め息を吐き出した。
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