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 炎天下の中を、もう小一時間ほど歩き続けていた。  空の一番高いところにまで上った太陽に燻され、地表から立ち上った熱気がむわりと足元にまとわりつく。風ひとつ吹かない空気は重く淀み、じっとり湿った木綿布のような薄気味悪い肌触りが首筋を撫でた。 (なんて暑さだ)  夏の京都の暑さは尋常ではないと耳にタコができるくらい聞かされていたが、これはちょっと予想以上だ。  着慣れないスーツの背中をじっとりと汗が伝い、里見杢太郎(さとみもくたろう)は眉間に皺を寄せる。こんなことなら気張らずにいつもの単と袴にしておけば良かった。あれなら懐から手拭いを突っ込んで、今すぐにでも汗を拭えるというのに。扇子で扇げば、着物の下に冷たい風を呼び込むことだってできる。 (いやいや、それじゃあ相手に失礼だ) ―――初対面の相手に会う時は、いつも以上に身嗜みに気を遣うこと。    田舎の母から口酸っぱく言われた言葉が頭を過ぎる。今着ている麻のスーツも、この春、就職先が決まった祝いに彼女が揃えてくれたものだ。日本橋の洋装店でわざわざ誂えたというそれがいったい一着いくらするのか、杢太郎は怖くて聞き出せないままだ。
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