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目の端に染みる汗を手の甲で拭いながら、杢太郎は手元の紙に目を落とした。湿った手に握りしめていたせいで、端がふやけてしまっている。京都駅で市電の行き先を尋ね、教えられたとおりの停留所で降り、この界隈を小一時間ほどうろついているというのに、一向に目的地にたどりつけない。まるで狸か狐に化かされて、同じ道をグルグル迷う旅人になった気分だ。
それもこれも、この呪文のような住所が悪いのだと杢太郎は思う。
(上ガルっていったいなんだよ)
この町の方向はすべて上ガル下ガル東入ル西入ルで示されている。どうして素直に東西南北では駄目なのか。東北の城下町で生まれ育った杢太郎には、皆目理解できない。
(……ああ、駄目だ)
直射日光に脳天をいぶされ、思考が鈍くなっている。これ以上この炎天下をうろついていたら、それこそ命の危機だ。
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