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 誰かに道を訪ねようにも、表通りに人の姿はない。地元の人間はこの炎天下の恐ろしさを身に染みてわかっているのだろう。照り返しにやられた軒先の朝顔が、息も絶え絶えといった風情で頭を垂れていた。  いっそどこかの家の戸を叩いて、道を聞こうか―――そう思いかけた時だった。  カロン。  涼やかな下駄の音に、杢太郎は視線を上げた。  たゆたう陽炎の向こうから、男が一人、姿を現した。白絣の単に縞袴、年齢は自分と同じくらいか。  杢太郎の目をまず引きつけたのは、その肌の白さだった。  夏の日差しを全否定するかのような青みがかった白。この暑さだというのに、汗ひとつ浮かんでいない。まるで彼の周りだけ、真冬の吾妻連峰に立ちこめる冷気が取り巻いているようだ。  ぼんやりと立ち竦む杢太郎の横を、男はちらりとも視線を寄越すことなく黙って通り過ぎる。  コロン、と下駄が地面を鳴らす音に、杢太郎はハッと我に返った。 (そうだ、道)
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