始まりの日

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 そうか、波斗先輩は私が大和先輩に失恋したと思ってるんだ。それならそう誤解したままでいいのかもしれない。  でも……私の千鶴ちゃんへの想いはちゃんとした恋だった。それを否定することはしたくなかった。 「違います」 「えっ……」 「そうじゃないんです。私のは不毛な恋。実らないのはわかっていたし」  波斗ははっとして紗世を見つめる。 「千鶴ちゃん……?」  紗世は頷く。 「女の子なのにおかしいって思います? でも私は一人の人に恋をしただけ。性別とかじゃなくて、ただ素直で優しくて一生懸命な千鶴ちゃんが好き」  あーあ、言っちゃった。きっと変な子だって思われるかな。でもどこかスッキリした自分もいた。それに、波斗先輩なら優しく受け止めてくれる気がしてた。 「でもね、千鶴ちゃんに彼氏が出来たら諦めようって思ってたんです。だから今日がその日。もう覚悟してたから大丈夫。立ち直るのにちょっと時間はかかるかもしれないけど」  紗世は波斗に微笑みかける。すると瞬間、紗世の体は波斗の腕の中に落ちていた。 「波斗先輩……?」  驚く紗世を、波斗は更に強く抱きしめる。 「……俺もなんだ」  囁くような言葉が紗世の耳元で響く。 「俺もずっと不毛な恋をしてるんだ……」 「先輩も……?」 「そう。俺の恋も決して実らない。でも紗世ちゃんみたいに割り切れなくて、あいつに彼女が出来ても、好きな気持ちは変えられない……」  顔は見えないけど、きっと悲しい顔をしてる……。そう思うと紗世も辛くなる。そっと波斗の体を抱きしめた。 「……好きでいることは自由じゃないですか。別に無理して諦めることはないですよ。私は次に進むために諦めるだけ。千鶴ちゃんのことを心から祝福したいもの」  抱きしめられるってこんな感触なんだ……。体温が温かくて、彼の心臓の音がこんなにも近い。  今日は一人で泣こうと思っていたのに、誰かがそばにいてくれることが、こんなにもホッとするなんて思いもしなかった。 「……私泣き始めたところだったんです。このまま泣いてもいいですか……?」  その言葉で、波斗は紗世を抱きしめていることに気付く。 「わっ! ご、ごめんね!」  そう言って離れようとする波斗を、今度は紗世が離さない。 「離しません。むしろ私を慰めて……」  あんな風に抱きしめるから、それにすがりつきたくなった。  波斗は戸惑いながらも、紗世をそっと優しく抱きしめる。 「今日は辛かったよね……俺で良ければ話し聞くよ。ずっとそばにいるからさ……」  波斗は紗世の頭を撫で、背中をさする。  その手が優しいから、紗世は声を上げて泣いた。しかし波斗が胸を貸してくれたため、声はほとんど漏れることはなかった。  
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