始まりの日

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 しかし正気に戻った波斗が、慌てて紗世の体を離す。 「ご、ごめん! 俺……なんてこと……」  波斗先輩が、優しくて天然だってことはみんな知ってる。私もかわいい先輩だって思ってた。でも今私の目の前にいるのは、それだけじゃない、秘密を持った影のある男性だった。  紗世は波斗の手に自分の手を重ね、ゆっくり指を絡めていく。 「先輩……先輩が嫌じゃないなら続けて……」  波斗先輩の顔が驚きで固まる。こんな顔、きっと私しか知らない。 「なんでかな……私は嫌じゃないの……。自棄になっているのかもしれない。慰めだっていい。むしろもっとしたい……んっ……」  再び波斗にキスをされて、紗世はそっと目を閉じると、腕を彼の首に回す。  次第に波斗の手が紗世の腰のあたりを不器用に動く。 「俺……男だよ?」 「言ったでしょ。私は千鶴ちゃんが好きだったって。前は学年一の秀才に恋してた時期もあるんだから」  そう言ってから紗世もハッとする。 「逆に先輩は女の子じゃ無理?」  波斗は苦笑いをする。 「わからない。俺は中学から男子校だから、そういうの疎いんだよね」  ただそう言いながらも、二人とも呼吸が荒くなっていく。紗世のうっとりした顔を見て、波斗は素直にかわいいと思った。 「紗世ちゃん……かわいい……」  自然と口に出た言葉に、波斗本人が一番驚いた。  紗世自身は恥ずかしくて顔を赤くする。なんて魔法みたいな言葉。かわいいのは先輩だわと思いながらも、紗世は心が溶けていくような感覚に陥る。 「先輩……私初めてだけど、この続きがしたいって言ったら……引く? やっぱり健先輩じゃないと欲情しない?」  波斗は苦しそうに紗世にキスを繰り返した。 「俺だって……初めてだから上手く出来ないと思うんだ……紗世ちゃんを傷つけちゃうかもしれないよ……」  痛みと熱に浮かされて、二人とも少しおかしくなっているのかもしれない。 「それでもいいの……私のこと、健先輩の代わりにしてもいい。このままやめたくない……」  私はどうなの? 千鶴ちゃんの代わりに波斗先輩と体を重ねるの?  波斗の熱っぽい瞳を見ていると、千鶴へのものとは違う感情が湧き上がる。  この人を慰めたいし、この人に私の傷を舐めてもらいたい。  だから私は大丈夫。千鶴ちゃんの身代わりとして波斗先輩が欲しいわけじゃない。波斗先輩が欲しい。  波斗は紗世を引き剥がすと、真剣な眼差しで紗世を見つめた。 「……紗世ちゃん、俺の部屋に来る? たまたまなんだけど、シングルにしてもらったから誰も来ないよ……」  俺は一体何を言ってるんだろう。湧き上がる欲望は抑えが効かなかった。 「いいの?」 「こんなところじゃ嫌でしょ? それに……」  波斗は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに俯く。 「部屋になら……ゴムがあるから……」 「……なんであるの?」  紗世は吹き出した。 「い、いっぱいじゃないからね! 男ならちゃんと持ってろって健に言われて、財布に何枚か入れられたのがあるだけだから……」  千鶴ちゃんしか見えてなかったから気付かなかったけど、こんなに魅力的な人がすぐそばにいたんだ。  二人は立ち上がると、熱が冷めないうちに、ホテルまで早足で歩き出した。  
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