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ホテルに戻ると、所々から話し声はするものの、人の姿までは見えなかった。そのおかげで、波斗の三階の角の部屋まで誰にも会わずに行くことが出来た。
二人は手を繋いだまま黙っている。波斗が鍵を開ける音がやけに大きく聞こえた。
波斗がドアを開け、紗世を先に入らせる。
紗世は波斗の部屋にゆっくり踏み入れる。ベッドと鏡台と椅子があるだけのシンプルな部屋だった。
背後で扉が施錠される音がして振り向くと、波斗が気まずそうに下を向いていた。
紗世は波斗の前に立つと、彼の手を握った。
「先輩……やめる? 今ならまだ引き返せるよ」
「……紗世ちゃんは? 引き返したい?」
不安そうな波斗に対し、紗世は笑顔で首を横に振った。
「もう無理……」
波斗は紗世にキスをすると、ベッドに倒れ込む。
「一応知識はたくさんあるんだよ……男同士でそういう話とかいろいろするから……でも……痛かったら言ってね。すぐやめるから……」
「うん、わかった……」
波斗の手が、一枚一枚紗世の服を取り去っていく。纏うものがなくなると、やはり恥ずかしい。
「明かり……消してくれる?」
波斗は部屋の明かりを消し、カーテンを開けて月明かりを部屋に取り込む。
彼の指が体をなぞり、紗世の敏感な部分を攻めていく。その感触に、紗世は新しい快楽を覚えるのだった。
* * * *
波斗の財布に入っていたゴムは三回分。最後の一枚。椅子に座る波斗に紗世が跨るように座ると、奥の方で波斗を感じた。
ふーっと息を吐いてから顔を上げると、紗世の目が突然輝いた。
「先輩、見て……星がきれい……。ねぇ、窓開けてもいい?」
波斗の返事を待たずに、紗世は窓を静かに開ける。
「紗世ちゃん……俺が中にいるのに余裕じゃない?」
波斗は紗世が落ちないように腰をしっかりと抱いたまま、紗世の胸に顔を埋めた。波斗の舌が肌の上で動くたびに、体の奥が疼く。
「初めてのセックスが、こんなにキレイな星を見ながらなんて、すごくロマンチック……」
「一応俺たち天文サークルだしね」
「絶対に忘れられない夜になったな……。先輩、ワガママ聞いてくれてありがとう……」
紗世は波斗にキスをする。
先輩は誰を抱いたのかしら……。健先輩? それとも私……? そんな言葉をグッと飲み込んだ。
波斗先輩に抱かれ、快楽にだけ酔うことが出来て、傷の痛みを感じずに済んだ。
「……もうゴムがないから、これで最後だね……」
波斗が少し残念そうに言った。
「素敵な夜だったな……」
「うん……そうだね」
「……じゃあ窓閉めるね」
二人の最初で最後の夜はおしまい。また現実に戻るだけ。
二人は再びベッドに戻り、ゆっくりとしたペースの中で力尽きた。
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