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紗世の目が覚めたのは明け方のことだった。あたりは静寂に包まれている。
体中のあちこちに痛みと気怠さが残るが、今も紗世は波斗の腕に抱かれたままだった。
熱に浮かされてこんなことになってしまったけど、全く後悔はしていなかった。
千鶴ちゃんにあんなこと言ったのに、私がこうなってるなんてね……千鶴ちゃんも大和先輩に抱かれたのかしら……。そう考えると少し寂しかった。でも隣で寝ている波斗先輩を見ると、その気持ちも和らぐ。彼はやっぱり私の傷を舐めてくれたみたい。
でも波斗先輩、昨夜のことを忘れて目を覚ましそうよね。私を見て驚いて、いきなり謝るんじゃないかしら?
紗世が心配する中、波斗がゆっくり目を覚ます。
「おはようございます。先輩」
紗世が言うと、波斗は目を見開いてから慌ててガバッと起き上がると、ベッドの上で土下座する。
「わっ……ご、ごめん! こんなことになっちゃって……」
やっぱり。土下座までは想像していなかったけど。
「先輩」
「な、何⁈」
「お互い初めてだったけど、すごく気持ち良かったですね」
紗世はにっこり微笑む。
「先輩のおかげで吹っ切れそうです。ありがとうございます。でも逆に先輩に嫌な思いをさせちゃったらごめんなさい……」
「……嫌だったら三回もしないよ」
二人は顔を見合わせて笑い出す。
先輩がこんなに一緒にいて楽しい人だなんて知らなかった。
「じゃあそろそろ部屋に戻らないと怪しまれちゃうから行きますね」
紗世はベッドを降りる。明らかに感じる下半身の痛みが、少し大人になったような気持ちにさせてくれた。
「部屋まで送るよ!」
「大丈夫。もし誰かに見られたら大変でしょ?」
波斗は下を向く。
紗世が服を着ると、波斗は紗世にキスをした。その顔が切なくて、紗世は胸がキュッと締めつけられる。たった一夜を過ごしただけなのに、まるで恋みたいな痛みを感じるなんて……。
「……また、いつも通り……かな?」
波斗に問いかけられて、紗世は頷いた。
「出来ます?」
「うん、たぶん……大丈夫」
紗世は波斗の手を握る。
「でも先輩が辛い時、苦しい時は呼んでね。すぐに駆けつけて慰めてあげる」
波斗は笑った。ドアの前でもう一度だけキスをして、紗世は波斗の部屋を後にした。
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