諦めの日

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諦めの日

 あれから半年。二人は毎日のようにお昼を一緒に食べる仲になっていた。 「今日もあの二人一緒にいるなぁ。まさか付き合ってるの?」 「いや、大学で同じサークルの先輩後輩だったって聞いてるけど」 「しかしあの二人……」 「びっくりするくらい絵になるよな……」 「今度上野に頼んで、飲み会とか開いてもらえないかなぁ」 「前に他の奴も聞いたらしいんだけど、目黒さんにはっきり断られたらしい」 「マジか……お堅いイメージあるもんな……」 「でもそこが目黒さんらしくていいんだけど」  男性陣のコソコソ話が聞こえる。 「ねぇねぇ、研究室の目黒さん、やけに上野さんに馴れ馴れしくない?」 「わかる。お昼も毎日のように一緒に食べてるから誘いにくくなったよね」 「でも今まで上野さんが誘いに乗ったことってなくない?」 「まぁ……そうだけど」 「大学の先輩後輩なんでしょ? 目黒さんから上野さんの学生時代の話とかこの間聞いて、なんか改めてキュンとしちゃった」 「えーっ、どんな話?」 「それがさぁ……」  など、女性陣の話も聞こえる。 「……紗世ちゃん、一体なんの話をしたの?」 「ふふ。教えません。女社会で生き抜くには、多少の対価も必要なんですよ」 「俺の学生時代が対価なのね……」 「モテる男の運命(さだめ)です」  今日の波斗はいつもより元気がない気がした。何かあったのかしら……。  そう思っていると、波斗は自身のスマホを紗世の前に置いた。画面を覗き込むと、健からのメールが表示されていた。 『大事な話があるんだけど、今夜って時間ある? ちなみに大和たちも誘ってる。』  波斗の顔を見ると、泣きそうな目で紗世を見つめていた。それを見ると紗世も辛くなった。  原因はこれだったのね。 「このメッセージ……いつ来たんですか?」 「今朝電車の中で。とうとう来たのかな……この日が……」  大事な話……。別れたという報告ならメールでも出来る。でも直に会ってということになると……。  結婚。 「八割方その可能性が高いですね……」 「だよね……行きたくないなぁ……でも行くって返事しちゃったし……」  机に肘をついて、両手で顔を覆う。行かない選択肢もあったはずなのに、波斗の性格上、理由もないのに断れなかったのだろう。  理由なら本当はあるのにね……紗世は心の中でこっそり呟く。その報告を聞きたくないから、なんて言えるわけがない。 「場所は決まったの?」 「うん、ここ」  メールには、会社近くの居酒屋のファイルが添付されていた。 「この近くにカフェがあったよね。私、終わるまでそこで待ってるよ」  驚く波斗の手を握って紗世は続ける。 「言ったでしょ? 一人にしないって」 「紗世ちゃん……でも時間だってわからないのに、そんなところに一人で待たせたくないよ……」 「そう? ……じゃあうちに来る? ただちょっと遠いけど……」  紗世がポツリと呟くと、波斗は驚いたように目を見開く。 「……行っていいの?」 「もちろん。でも違う話かもしれないでしょ? その時は普通に家に帰って大丈夫だからね。まぁ要は保険みたいなものよ」 「紗世ちゃんのこと、そんな扱いしていいの?」 「波斗先輩だけよ、そんな扱いしていいのは。先輩だけは特別なの」  波斗が小さく笑う。 「ありがとう……」  俺だけか……。自分だけが特別と言われたことがうれしかった。
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