第四話 「車いすの男」

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第四話 「車いすの男」

 友人に聞いた話です。  学生の頃、友人はスーパーでアルバイトをしていました。個人営業のスーパーで、雰囲気はコンビニに近かったとのこと。  バックヤードはとてもせまくて、積まれた段ボール箱のために通り抜けるのも大変です。ある時、そのバックヤードに商品を取りに行ったところ、積んである荷物の間になぜか車いすに乗った男性がいました。  それはまさに、荷物の間に「埋まっている」としか言いようのない状態で、彼が着ているチェック柄のシャツまで確認できたそうです。「え?」と思って見直すと、そこには段ボール箱があるだけで不審なものは何もない。  その時は気のせいかと思いましたが、店で働く人の間では有名な話だったらしく、「私も見た」という人はもっと怖い体験をしていました。  開店前、レジで商品の値段を確認していると、誰かが後ろを通った気配がする。  あれ? と思って振り返っても自分以外は誰もいない。そのまま仕事を続けていたら、後ろでむすんだエプロンのひもを背後からすっと引っ張られ、ぱらっとほどけてしまったそうです。 「ちょっと、何するんですか」  と言って振り返ると、見えたバックヤードの中に車いすの男がいる。びっくりして声も上げられずにいたら、そのまま男は音もなく奥へと消えてしまいました。  さすがに店長に相談したところ、神社で厄除けの札を買って事務所に置いてくれたそうです。  その後は特にさわぎも起こらず、友人はバイトを続けました。現在くだんのスーパーは他の会社に買収され、今はまったく異なる店が建っているとのことでした。
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