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第五話 「不審者」
学生時代の話です。
その日、レポート提出のために深夜まで起きていた私は、窓の外から聞こえた女性の叫び声にびっくりしました。
私が住んでいたアパートは住宅街の奥にあり、昼間も夜も住民以外は通らないような場所でした。よく言えば閑静な住宅街で、悪く言えば人通りがない。「チカンに注意」という立札があったのを覚えています。
叫び声が聞こえた時間は、午前二時をすぎたくらいでした。まごうことなき丑三つ時で、人の気配があったらむしろ恐怖を感じる時間です。
初めは酔っ払いの痴話ゲンカかと軽く考えていましたが、「いや」「来ないで」「やめてください‼」と聞こえて浮足立ちました。痴話ゲンカなら相手の男性の声も聞こえるはずですが、耳に入るのは甲高い若い女性の声だけでした。
あわてて窓の外を見ましたが、真っ暗で何も見えません。一瞬「大丈夫ですかー」と声をかけようかとも思いましたが、それも怖すぎて実行できない。
さすがにまずいと思った私はその場で警察に連絡しました。人生で初めての通報です。
「あのー、家のすぐそばで、女の人の叫び声が聞こえるんですが」と伝えたら、名前と住所を聞かれた上で、「外に出ないでくださいね」と電話の相手に告げられました。その時、女性の叫び声はもう聞こえなくなっていました。
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