第五話 「不審者」

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 三十分ほどたった頃、サイレンを鳴らしてパトカーがアパートにかけつけてくれました。実は住んでいたアパートは大家さんちの敷地にあって、警察の方はまず大家さんのお宅に行ったようでした。  サイレンの音でさすがに私もアパートから顔を出したのですが、隣に住んでいたОLさんも同じような形で出て来て、「聞いた? さっき、女の人が何か叫んでたよね」と言いました。  ああ、やっぱり聞こえてたかとその時ちょっと脱力しました。そりゃそうだよな、逆に何で誰も出て来ないんだ、ってくらい大きい声だったもんなー、と。  その後、大家さんをともなった警察の方がアパートに来ました。「通報してくれた方はどっち?」と聞かれたので手を上げました。手短に話を繰り返し、横にいてくれたОLさんも色々フォローしてくれまして、後は警察に任せてください、といった感じでその日は終わりました。  後日、大家さんがお菓子を持ってわざわざお礼に来てくれました。 「実は同じアパートの人が変質者の被害に遭っていたんです」と。  女子大生だったそうですが、後をつけて来た不審者に追いかけられて、押し倒され、パンツを脱がされて写真を撮られた──という結構生々しい話でした。  この事件以来、もしも自分が深夜不審者に遭ったとしても、誰かが助けに来てくれる可能性はほとんどないと知りました。せいぜいがとこ通報してくれるくらいで、パトカーが着いた時には最悪、命を落としているでしょう。  大声を上げても無駄だと思いました。だって私自身が怖くて声もかけられなかったし。電話で警察の人からも「外に出ないで下さい」って言われたし……。  その後、パトカーがアパートのそばの見回りを強化してくれて、大家さんがアパートの近くに三つも照明をつけてくれたのですが(たしかに暗い道だった。板塀が延々続いてたりして、昭和感あふれる路地でした)、犯人は捕まりませんでした。
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