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始まりの日
放送部の千鶴は、下校の放送を終わらせて帰るところだった。
一月も半ばを過ぎたが、帰る頃には既に暗くなっている。今日も一日長かったと思いながら、足早に家に向かっていた。
小さな川を渡るための陸橋に差し掛かった時、一人の老婆が橋の上でウロウロしているのが見えた。
千鶴はその様子が気になり駆け寄っていく。
「どうかしましたか?」
千鶴に声をかけられ、初めは驚いた女性も、中学生の千鶴を見てホッとしたような表情を浮かべる。
「さっきね、ここで小さな鈴ついた根付けを落としちゃったのよ。孫からもらったものなんだけど、暗くなるとわからなくなっちゃって……」
困っている様子の女性を放っておけず、千鶴は一緒に探し始めた。
「ごめんなさいね、もう暗いのに……」
「いえいえ。二人で探せば早いと思うので!」
しかし一向に見つからない。二人の間に諦めの空気が流れ始めた時だった。
「何やってんの?」
自転車に乗った男子生徒に声をかけられた。カゴに大きいスポーツバッグが入っており、そこには英語でバスケットボールの文字が見えた。
「あっ……この方が鈴のついた根付けを落としちゃったそうで、一緒に探してたんです」
「ふーん」
そう言うと男子生徒はカバンからスマホを取り出し、明かりをつけた。
「えっ、携帯は持ってきちゃいけないんじゃ……」
千鶴が言いかけた時、
「そこ」
彼は陸橋の柵を指差す。そこには根付けが引っかかっていた。
「あった!」
「まぁまぁ、ありがとうございます! 助かりました」
老婆は二人にお礼を言うと去っていった。
千鶴も慌てて男子生徒の方を向いてお礼を言う。
「ありがとうございました! 私だけだったらきっとまだ見つかってなかったかも。助かりました」
「別にいいよ。そのかわり携帯のことは秘密にしとけよ」
「も、もちろんです!」
そう言って彼は自転車で走り去っていった。
普通なら無視するような場面。一緒に探してくれるなんて、きっといい人に違いない。まぁ校則破って携帯を持っていたけど、私だって校則破っておやつをカバンに忍ばせてるし。
顔はよく見えなかった。声は少し低くくて、口調はクールな感じ?
なんだろう。ちょっとだけときめいてしまった。
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