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記念のショッピング
午後になってから、僕たちは隣町にあるショッピングモールに行った。
今、僕と取子はとあるブランド店で取子の洋服を探しているところだ。
まぁ、僕もなんかいいものがあれば買いたいなとは思うけど……ファッションに無頓着な僕にとってはどういう服を買えばいいかよくわからない。
「ねぇ、これなんてどうかな?」
僕に背を向けていた取子がくるっと振り返る。
その取子の動きと、ともにワイン色の上品なワンピースがふわっと揺れた。
「うーん、似合うとは思うけど……前も同じような洋服を買わなかったか?」
確か去年の春だったと思う、ノースリーブの隅から隅まで真っ赤なワンピースを買っていた。
今回は真っ赤ではないけど、ところどころにあるステッチと襟とボタン以外はすべて赤ワインにつけて染めたように赤かった。
「あれ、そうかな? こういう特別な日には普段はなかなか着れないような服を着たいんだ」
「取子って赤が好きなのか?」
そんな質問をしてみた。
取子は一瞬、表情を曇らせた。
「うーん、なんか赤って鮮やかじゃない? きれいっていうか……」
取子はその一瞬の曇りをごまかすようにすぐに理由を返した。
「そうか……、とりあえず試着してみたらどうだ?」
「うん、そうね。行ってくる」
取子はワンピース一緒に試着室へと姿を消した。
取子って本当に赤色が好きだよなぁ……。
なんでだろう、いつもは水色とかグレーの色の服を着ているのに。
僕は少し足を休ませるために店の端にあった柱に寄りかかった。
僕はさらっと店の周りを見る。
そのとき、一つの薄手のシャツを見つけた。
空の色みたいなカジュアルなシャツ、これからの季節にぴったりの色だ。
これなら、いろんな色にも合いそう。
僕はそのシャツに引き込まれるかのように手を伸ばす。
「ねぇ、どうかな?」
僕は手を止めて、振り返る。
僕が振り返ると、取子はその場で軽くターンをした。
取子が回ると同時に、スカートのすそが美しくなびく。
「うん、似合ってると思うよ。そのステッチがワンピースの色にあっていてきれいだよ」
「ありがとう、これ買おうかな。せっかく来たんだし、レジ行ってくるね」
取子はまた試着室に向かおうとする。
「ちょっと待て」
それを僕が引き留めた。
「ん、何?」
取子は頭だけ僕のほうに向ける。
「今日は大事な記念日だろ? それは僕が買うよ」
「いいの? これ結構いい値段するはずだけど……」
「あぁ、いいよ」
「ありがとう、その代わり今日は私がおいしいディナーを作ってあげる♡」
「あれ、今日は外食するって話じゃなかったか?」
僕は目を丸くした、おいしいディナーって言っても取子は朝から夕食の準備をしているほど料理には時間をかける。
それをいきなり予定変更なんて取子のプライドが許さないのだと思ってた。
「んー、なんかそんな気分じゃなくなちゃった。まぁまぁ、私の気分だから気にしないで」
はぁ、もう取子は本当に気分屋だな。
まぁ、そういうところも惚れた一つのところだけど。
そう思いながら、試着室にまた消えていく取子の背中を見ていた。
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