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隅っ娘
おや? 部屋の隅にコゲ茶色のゴミが落ちてるぞ! 何だコレ?
「うぉっ! 動いた」
よく見ると、それは以前付き合っていた彼女となんとなく入ったペットショップで一緒に見たことがある針ネズミだった。
それにしてもよく寝てるな〜 こいつは丸まって寝るのか、可愛すぎるだろ。
35歳の俺が見てもこの存在はポワポワしてて癒される。
……これはもしかして俺に飼えと言う事なのか?
「突いたら起きるかな?」
駄目だ、起きない。
それにしてもこいつ、どこから入って来たんだ?
「おい! 起きろ、不法侵入の罪で逮捕するぞ」
「不法侵入とは失礼ですね、ちゃんとおじ様が入れてくれましたよ」
「うぉっ! 誰だお前」
後ろを振り向くと黒髪でおかっぱボブのセーラー服女子が立っていた。
けっこう可愛いし、清楚な感じだ。
「お前、誰だ?」
「誰だと言われたら分からないとしか答えようがありませんね」
「分からないってなんだよ、俺の部屋に勝手に入ってきてその言いぐさは無いだろ。自己紹介くらいしろよ!」
「だって、分からないものは、分からないですもの」
「おい、泣くなよ」
「ズズ~」
「まあ、落ち着いて。ベットにでも座ってくれ。ほれ、ティッシュ」
ティッシュを箱ごと渡そうとしたが、彼女は中身だけ箱から3枚ほど抜いて鼻をかんだ。そして鼻水をあらかた出し終えた後、俺に鼻水でべちゃべちゃのゴミを渡した。
「ありがとうございます、ズズズ~」
彼女がベットに腰を掛けたので俺もその横に座った。何とも居心地の悪い状況だ。横目で彼女を見ると切れ長の大きな眼の上に長いまつ毛が乗っかっている。胸は大きからず小さからず普通だ。セーラー服の裾は膝上で細長い綺麗な足が見えている。
「なあ、名前が分からないと言う事は記憶喪失なのか?」
「はい、何もかも記憶がありません」
「……」
記憶喪失か、やばいな。……でもまあその事も問題だけど、それより気になるのは、彼女はいったいどうやってこの部屋に入ってきたかと言う事だ。
「俺、本当に覚えてないんだけど君はどうやってこの部屋に入ってきたんだ? 鍵はちゃんと掛けたので普通には入れないはずなのだが?」
「それは、──それは昨日の夜、私がコンビニの前で食事をしているとフラフラな感じで歩いて来たおじ様が「美味しそうなパンが落ちてるぞ」とか言って私を持ち上げてこの部屋に入れてくれたのですよ」
確かに昨日は飲み過ぎて泥酔してフラフラだったことは事実だ。もし今の話しが本当なら俺はパンと少女の区別もつかないくらい酔っていた事になる。
……これって誘拐だよな。やばい、やばいな~
「なあ、もしよければ君を家まで送ろうと思うのだけどどうかな~」
「自分の事すら分からないのに帰れる家なんて分かるわけないじゃないですか」
「うっ! 確かにそうだ」
また彼女が泣きそうな顔をしているので俺はアタフタして彼女の頭を撫でた。するとカクンと体が落ちて寝てしまい、そして一瞬で俺の目の前から姿を消した。
「うぉっ! 消えたぞ」
これはどういう事なのだろう、彼女はもしかしてお化けか妖怪の類なのか? もしくは俺が夢でも見ているのか?
「キュ キュ」
部屋の隅で針ネズミの鳴き声が聞こえた。
「お前、まだいたのか」
針ネズミを左手に乗せ右手で撫でてやると、丸くなりすぐに寝てしまった。
「先ほどから私の頭を気安く撫ですぎです!」
俺の後ろで声が聞こえたのでゆっくり首を回すと、そこには彼女が現れていた。
「お、お前幽霊か! 幽霊なのか!」
「違います、私はれっきとした人間です」
「でも消えたと思ったら出てきたぞ」
「いつの頃からか分からないのですけど、頭を撫でられると寝てしまって針ネズミになってしまうのです。そして針ネズミの状態の時に撫でられると寝てしまい人間に戻れます」
「そ、そうか。でもそれって人間じゃないぞ」
「人間ですよ!」
「分かった、分かったからもう一度頭を撫でさせろ。そして君が消えて針ネズミが起きたら信じるよ」
「……それじゃ、これが最後ですよ」
「おう! それじゃ撫でるぞ」
彼女の頭を柔らかく撫でてやるとベットに倒れて寝てしまい、一瞬で消えてしまった。
「キュ キュ」
もう驚かない、どうやら彼女の言っていたことは本当のようだ。針ネズミが俺の左手の上で目を開いてモゾモゾしている。
俺は針ネズミを右手に乗せたり左手に乗せたりして少し考えた。
確かに彼女は可愛かったからこの部屋にしばらく住まわせても良いのだが、少女誘拐の罪で警察に踏み込まれても困る。そして何よりこの部屋は6畳一間の1Kの部屋なので俺と人間の姿の彼女との二人暮らしでは狭いのだ。
「お前そのままでいろ。そしたらしばらくここに住んでいいぞ」
「キュ キュ、キュッ キュ~」
針ネズミが俺の左手の上で半立して何かを訴えかけている。
「言いたいことは分かる、分かるがダメだ。その姿で我慢しな」
「キュルキュルキュル、キュッキュッ!」
「まあ何だな、お前可愛いよな」
「キュルキュルキュル~~~キュウ~」
「フフ 人間の君、ゆっくりおやすみ。そして針ネズミ君、これからよろしくな」
あ! でも針ネズミ君が普通に寝たら彼女が出てくるか、……まあいいや。
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