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「先に来てるなんて、もしかして少しはやる気になったの?」
彼女は頬杖をついて、煽るような、からかうような微笑を浮かべる。
まるで見透かしたような黒い瞳。夜の闇を思わせるような、艶やかで加工されてないセミロングの黒のストレートヘア。一本一本が細くて、毛先も綺麗に揃っていて、中学生らしからぬ怪しい美を演出している。
なるほど魔女と呼ばれるだけの、ミステリアスさと妖艶さがあった。
視界の端では、さっき噂していた二人の女子が、まるで異質な空気から一定の距離を置くように、席を移動するのがぼんやり見えた。魔女の噂とかみんな信じてるんだな、と僕はちょっと冷めた気持ちだった。
「まさか。彩瀬さんを待たせちゃ悪いと思っただけで」
僕は冗談めかした。けど、これは本当だ。わざわざ落ちこぼれのために時間を割いてくれるクラスメイトを、無下にしたりはしない。
「ふうん。でも八尋くん、本当は勉強できないわけじゃないんでしょ?」
いきなり鋭くそう指摘されて、僕は一瞬、思考が停止した。あまりにも断定的で確信に満ちた言いかただったから、いったいどこから僕の個人情報が漏洩したのだろうと、脳が勝手に犯人探しを始めたほどだった。
まさか、雪風のヤツじゃないだろうな――?
頭の中に、普段からおしゃべりで調子のいい幼馴染の姿が浮かんできた。してやったりの、にやにやとしている顔が。
いやでも、雪風はひとの嫌がることを進んでやるヤツじゃないと、すぐに思い直した。
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