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「えっと、どっかでそんな話したっけ?」
だから僕はそう聞き返した。二年生ではじめて同じクラスになった彼女との関係は、まだゼロに近いほうと言ってよかった。
「ううん、別に」
即答だった。
「じゃあ――なんで言いきれるのさ?」
図星を突かれていたので、少し反発したくなったのだ。すると彼女は、意味深な笑みを口の端に浮かべながら、こう告げた。
「キミの心を読んだから、って言ったら?」
「は?」
自分でも変な声が漏れたのがわかった。静寂な室内に響く。放課後とはいえ、ここは図書室だ。周囲からの非難の視線を感じた。
乾いた笑みが浮かんでくる。
「そんな見え透いた嘘をつくなんて、彩瀬さんらしくないよ……」
と言いつつ、胸のうちを探られているようで、そわそわする。彼女の黒い瞳は、そういう怪しさを含んでいた。この突拍子もない言動も、魔女たる所以だ。
僕の少々嫌みな言葉を浴びながら、それでも彼女は、不敵な微笑を歪めることはなかった。
「嘘? そっか。嘘だって思うんだ?」
ふうん、と漏らす。
いやそんな、意味ありげにされても。心を読むなんてありえないから。
「そりゃ……そう言われて、手放しに信じるひとのほうが少ないでしょ」
「そう? だってここは美谷町よ。それが嘘だってはっきり言いきれる? 美谷町の魔女には、そういう能力を持ったひとがいるかもしれないじゃない?」
試されていると、そう感じたくらいだ。
魔女――。
ここ美谷中学校でも、今も話題になり続けている存在。それが、魔女。
一年生の頃からの噂どおりだ。こうしてそばにいると、納得する。
彼女は魔女。そう思わせるくらい、掴みどころのないミステリアスさを孕んでいた。
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