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美谷町の魔女伝説。
それはこの町に住む者なら、誰もが一度は耳にしたことのある、眉唾物の伝承だ。今風にいうなら、『都市伝説』というほうが取っつきやすいかもしれない。この町だけのささやかな都市伝説。
それが魔女。美谷町に今もいるという、魔女のお話。
詳しくはないけど、魔女といえば、中世あたりのヨーロッパで有名な俗信のはずだ。
魔女は特殊な能力を持つとされている。死に際の魔女からは魔力が移るとか、週に一回サバトに参加するだとか、水中に沈められても浮かび上がるとか、身体のどこかに契約の印と呼ばれる、痛みを感じない箇所があるとか――。
あと、多くの魔女は黒猫を聖なるものとして飼っているらしい。だから黒猫は魔女の使い魔とされている。
どれも実に怪しい伝承だけど、そういった特殊性を理由に、中世ヨーロッパでは魔女狩りという残酷な儀式が行われて、理不尽にも罪のない女性がたくさん命を落としたという。
さすがにこの町に魔女狩りの歴史はないはずだけど、でも魔女は不思議な力を持つ人間で、人々に不幸をもたらす存在なのだ、というふうに、かつて言われていたらしい。
たとえば東北のイタコとか、沖縄のユタとか、拝み屋だとか、そういう霊能力者と近い解釈なのかもしれない。とにかく、常人とは違った能力を持つとされる女性――それが美谷町の魔女なのだ。
その、いつの時代にできたかもわからない伝説が、この令和の時代にまで生き続けている。魔女が奉られているという神社があったり、七月には夏祭りと称して魔女に祈りを捧げる行事があったり、話題は事欠かない。
かつての魔女の血は脈々と現代に受け継がれ、この町のどこかには、その末裔が残されているのだと、今でも信じ続けられている。
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