魔女と僕のプロローグ

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 彼女――彩瀬椎奈(あやせしな)は、かつて魔女の疑いをかけられた女の子、らしい。  らしい、という曖昧な表現を使うのは、その魔女疑惑は、彩瀬さんが小学生時代に始まったことだからだ。  当時僕は、隣町の私立小学校に通っていたから、彼女の小学時代は知らない。といっても、そもそも彩瀬さんと僕の住む地域は異なるので、普通に市立小学校に通っていたとしても、彼女の噂を聞くことはなかったのかもしれない。  だから、彩瀬椎奈魔女説を僕がはじめて耳にしたのは、ここ市立美谷中学校に入学して、しばらくが経ってからだった。  ねえねえ、知ってる?  一年D組に魔女の子がいるんだって――。  うっそー、マジで?  ちなみに僕は一年A組だった。聞いた話では、彩瀬さんの持つ周囲に溶け込まない独特でミステリアスな雰囲気が、噂に拍車をかけた理由のひとつらしい。わかるような気がする。彩瀬さんはあまり表情を変化させないし、女子の仲良しグループに混じったりもしない。  とはいえ、彼女は極端な無口だったり、気難しかったりするわけではない。けど、深い部分では他人と距離を置いているような、胸をうちを明かしていないような、けれどこちらの心だけは見透かされてるような、そんな不思議な印象があるのだ。  中世ヨーロッパではないが、美谷町における、魔女を特徴づける言い伝えはいくつかある。  魔女は魔法を使える。魔女は使い魔を飼っている。魔女は物に触れずに動かすことができる。読心術が使える――。どれも非現実的な噂話。  ちなみに美谷中学校には、クロエと名付けられた野良の黒猫が住み着いている。そのクロエはなぜか彩瀬さんに懐いているらしく、それもまた、彼女の魔女疑惑を助長していたりする。
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