魔女と僕のプロローグ

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「魔女なんて――やめようよ……」  僕が思わず強めにそう言うと、彩瀬さんは驚いたように、少しだけ黒い瞳を大きくした。 「ほら、なんか差別みたいじゃん? 彩瀬さんだって、魔女扱いされたりして……本当は嫌なんじゃないの?」  ねえねえ、知ってる?  あの子、魔女なんだって――。  誰のものでもない声が、頭に響く。 「さあ、どうかしら……」  軽くいなされてしまった。まるで期待がはずれて落胆したような、興が冷めたような反応だった。彩瀬さんは、鞄からノートを取り出して机に広げた。 「――そっか、八尋くんの通ってた小学校では、魔女伝説は流行らなかったんだ? 隣町だし、私立って優等生ばかりだものね」  すぐに、彼女は話を蒸し返した。  ああ、また魔女、魔女、魔女――。  いつも聞いてて思うけど、そんなに面白いかな、魔女の話なんて。  正直、特定の誰かを選別して除け者にするみたいで、耳を塞ぎたくなることもある。  勉強の手がまた止まってしまった。けど魔女伝説と同じくらい、それは僕には関心のないことだった。有名私立小学校から、普通の市立中学校に進学して、あらためてそう思う。  机上の勉強。紙の上の評価。一から一〇〇の数字で決める個人の点数。順位づけされる生徒たち。大した意味を見いだせない。  人生の幸不幸は、勉強の良し悪しでは決まらない。だからこそ世の中には、秀才でありながら悲運な未来を強いられる受験生もいる。それを僕は知っている。 「劣等生だよ。僕は」  あえて自虐さを意識して、僕は言った。  こうして放課後の時間を勉学に潰していること自体、不本意だ。まだ読み終えていない、先週発売のオカルト雑誌を早く読破したいと心の中では考えていたりする。  魔女伝説は眉唾物でも、UFOやUMAは信じられるから。あれは間違いなくいる。寂れた町の伝説なんかより、ずっと真実味がある。
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