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川西美和子、異世界婚活始めます
「別れてよ。子どもが出来た。彼女と結婚するから」
「は?」
呆けた言葉が漏れる。
久しぶりのデートにワクワクしていた心が急速に冷えていく。
目の前には、大好きな人の驚くほど冷たい目。隣に私と正反対のフェミニンな雰囲気の女性がワンピースを着て座っている。
ジャズと賑やかな客の声に溢れたオシャレなカフェなのに、一瞬で何も聞こえなくなったような気がした。
彼の言葉を理解したと同時に、気付いたら彼に平手打ちをしていた。
バシンッと大きな音が響き、その瞬間、店内は軽快なサックスの音色だけになる。
千円札を伝票の横に置いて席を立ち、精一杯の平静を装った声で言った。
「お幸せに」
カフェを飛び出し、往来を避けて最寄り駅とは逆方向へ足早に向かう。
途中、涙がこぼれないよう上を見て歩いたせいで、思い切り水たまりを踏んづけた。
この日のために買ったパンプスもぐちゃぐちゃになってしまった。お気に入りのスカートにも泥が跳ねている。
ショーウインドウに映る精一杯のオシャレに身を包んだ私の顔は、目も鼻も頬も赤いし、それはもう酷い。
「はぁ」
一生分の幸せが逃げそうなため息が漏れた。
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