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螢火
夏の夜よりも濃い闇の中で過ぎ行く蛍を見詰める貴女の横顔は私の瞳に
蛍火は鬼火に似て何処となく哀しいと呟く貴女の落ちた声は私の耳に
舞飛ぶ蛍火に照らされた一輪の百合に似た貴女の姿は私の胸に
身を焼く程に焦がれる想いは、あの蛍に
見付からないように持ち込んだ百合の花に
貴女を視ると云ったら君は笑ってくれるだろうか
ただ一つ貴女への想いが 記憶が 拠り所だと云えば柔らかな声で莫迦な人と云ってくれるだろうか
届かない手紙を握り締めて貴女の元へ戻りたいと希う私を愛おしく想ってくれるだろうか
貴女と生きていきたかった
ただ共に在りたかった
一陣の風になる事よりも貴女の頬を撫でる風になりたかった、蛍火を灯すよりも貴女と一緒に眺めたかった
ただそっと貴女と寄り添いあう喜びを分かち合い共に歩みたかった
勝つ事よりも、輝かしい未来さえも、貴女と別つ大義名分も、栄誉も何も要らない
ただ貴女の傍に居れる幸福な日々が何よりも欲しかった
濡れる瞳で唇を噛み締める貴女を独り残して往きたくなかった、縋るような細い指を手離したくはなかった
人に非ずと云われても、地獄に堕ちようとも貴女と共に逃げたいのだと云えば仕方ないと笑って手を取ってくれただろうか
今この時ですら想い続ける私を貴女は愛してくれるだろうか
まだ生きていたかった
ただ貴女と共に生きていたかった
貴女と日々を重ねたかった
他愛ない日常を大事にしたかった
この夏も貴女は私との想い出を胸に、あの場所へ行ってくれるだろうか
あの場所で私を思い返してくれるだろうか
あの場所で貴女は独り泣いているのだろうか
もし泣いてくれるのならば、その涙を拭えない私を赦して欲しい
書き連ねた言葉は貴女への溢れる想い
鳴きもせず身を焦がす程に募っていくのは
貴女への想いばかり
先を逝く蛍火は儚さ故に美しい
生まれ変わりがあるとするならば
あの蛍が良い
灯す場所を選べるなら貴女の傍が良い
私の蛍火は貴女の為だけに
今、貴女の元へ
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