7人が本棚に入れています
本棚に追加
推しの結婚を知ったのは、普段なら見向きもしないネットニュースの通知だった。
【国民的アイドルグループの元絶対的エース・白野枝里が若手俳優○○と電撃結婚!!】
端的な情報だけ記されたそのニュースのタイトルは、ふとスマホの画面を開いた僕の心を大きく動揺させるには充分だった。
「嘘だろ」
意識とは別に、自然と声が出た。
「エリリンが結婚なんてありえない」
白野枝里の愛称であるエリリンという単語を、僕は一日に百回近く目を通す生活を送っている。
自室は、それこそエリリンで埋め尽くされているし、もはやエリリン中心の生活を送っている僕にとって、エリリンは人生そのものであった。
僕は即座にそのネットニュースのページを開き、英単語を覚える受験生のようにその文章の一言一句を記憶する。
半年間の交際。二度の共演歴。三歳差の姐さん女房。
それらの単語を何度も復唱しては、その度に吐き気を催す。
映画の試写会でたまたま隣り合わせで並んでいた二人の笑顔の写真がトップに載せられていて、遂に我慢出来なくなった僕はトイレに駆け込み、今朝食べたカレーパンを全て出した。
茶色く染まった水が、僕を嘲笑うかのように軽く波をうつ。
恐らくパン生地だと思われる小さな固形物が、ゆっくりと沈殿していく。
そして、なんとも言えない腐敗した酸味が口の中に広がった瞬間、僕は「死」を決意した。
最初のコメントを投稿しよう!