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1.ある平凡なアルファ
ひとりで静かに本を読んでいる時間が1番好きな子供だった。
家族や友人と不仲だったわけではなく、ただそういう気質の子供だったというだけの話だ。
現状に不満もなかったし、地元の学校を卒業したら書店にでも就職すればいい、と考えていた。
そのつもりで応募書類を揃えるために受けた健康診断で、αという第2の性が判明した。
αと言えば、一般的に学力や身体能力が高いと言われるが、いきなりそんなこと言われても実感はない。
確かに成績も悪くはないし運動も人並み、良くて器用貧乏といったところだろう。
αとΩの間にはαやΩが生まれやすいという。
優秀なαやその番のΩが多く集まる王都などでは、幼いうちにバース性診断を受けることは当たり前のようだが、俺の地元はβの一般家庭が集まる地域。
よっぽど特徴的な子供でもなければ、そして俺自身も例に漏れず、義務教育を終えて進学や就職を前に「念のため」検査して終わり、というのが一般的な話のはずだった。
何かの間違いだと俺自身が一番思ったが、再検査をしても結果は変わらなかった。
義務教育として一応の性教育を受けて基本的な知識は知っているつもりだし、αやΩの性を持つ者を見たことが全くないというわけではない。
とはいえ、例えば姫と呼ばれるΩの後輩を見ても「ああ確かに可愛いよね」程度のものだ。
α同士ならば出会った瞬間に目線だけで会話して力関係を探るとかなんとか、マジかよ怖い。
要するにαやΩから出ているフェロモンも正直眉唾もので、俺自身に実感は全くない。
人によっては生まれながらαやΩとして自覚するか、大抵は自我が目覚める3〜4歳頃には明らかな特徴が顕れるものだが、あくまで個人差による。
俺がまだ未成熟だという可能性もなくはないが、器用貧乏な俺の場合は単純にαとしての特徴が薄いということだろう。
そんな予想外の結果を受けて、教師たちから王都の高等学校へ進学してはどうかと勧められた。
確かに就職希望は絶対ではなかったし、いいように解釈すれば、αならこれからの伸び代も期待できるであろうことは、さすがの俺にも理解できる。
しかし王都の高等学校は王族や貴族たちも数多く通う、所謂エリート学校だ。
そんなところにαだからと言って庶民の俺が入ったところで場違いに決まってる。
そうだ、本でも読んだことがある。
こういうぽっと出で入学した異端児は「庶民のクセに生意気」とか言われて嫌がらせを受けるのが定石だってこと、俺は知ってるんだ。
そんなことを丁寧な言葉でやんわりと伝えてみたが、
「ははは、さすがよく知ってるね」
いや笑い事ではないのだが。
「そうそう、僕もαで例の学校を卒業しているんだけど、」
「…………」
「これは僕の直感だけど、きっと君なら大丈夫。それに人生の選択肢は多いほうがいい。どうしてもダメなら帰ってくれば良いさ」
それに、と教師は続けて言った。
「入試成績次第では学費免除の特待生も狙えるから……最悪、入試結果を見てから決めてもいい」
なるほど。
まあ、タダなら行ってもいいか……そんな軽い気持ちで頷いた。
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