1.ある平凡なアルファ

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 段々と学園生活にも慣れた頃、俺は学園に併設している図書館でアルバイトをしていた。  学費が必要ないと言っても王都で暮らす生活費は必要だ。  運よく図書館アルバイトの募集を見つけてすぐに申し込んだのだが、元々書店員志望だったとわかれば大歓迎で採用された。  窓口に座って貸出を担当したり、資料の場所を案内したりするのが主な仕事だ。  仕事を通して人の流れを見ていると、この図書館は本当にいろんな人たちにいろんな目的で利用されていることがよくわかる。  ああ、今日は初等部で課題が出たな、がんばれ。  中等部は試験が近いのか、参考書コーナーの出入りが激しいな。  やっぱり教師たちも日々勉強をしているんだな。  なんて。  毎日のように見かける常連も多く、朝から晩まで書庫に籠もっている研究者や、最新の雑誌を読みに来る学生もいるし、資格試験の勉強をしている人もいる。  彼らと特に言葉を交わすことはないが、この空間で感じる一体感や、穏やかに流れていく時間が心地良い。  ちょうどこの窓口に相談に来ている彼も、最近は毎日のように見かける常連のひとりだ。  金髪碧眼で絵に描いたような美形の彼は学園でも有名なので知ってはいたが、初めて近くで見たときは圧倒的な存在感というか、溢れんばかりのオーラでキラキラしているように見えた。  なにこれ王子様かよ!と心の声が叫んだが、本当に王子様とは親戚らしい。  もう少し知るのが遅ければ「王子様」と脳内であだ名をつけるところだったので危なかった。  彼はほぼ毎日図書館にやってきて勉強しているようで、ときどきこうして窓口に相談に来ることもある。  最初はタイミング的に俺が相談に当たることが多い程度だったが、ほかのスタッフだと彼に恐縮し過ぎるとかで、いつからか彼が相談に来ると暗黙の了解で俺が呼ばれるようになった。  いや、俺はいち学生なんだがそれでいいのか、と思わなくもないが、まあ同じ学生同士だと話しやすいこともあるだろう。  相談するときの話し方も最初に比べて砕けてきたし、相談のあとはいつも笑顔でお礼を言ってくれるのは、なんだか可愛い……と思ってしまうのは失礼極まりないので絶対に秘密だ。  それから今日は、珍しく本物の王子様も相談にやってきた。  先ほどの彼とは別系統だが、黒髪黒目の王子様の美しさや存在感は圧倒的で、説明されなくても王子様だとすぐにわかった。  相談担当として案の定俺が呼ばれたのは別にいいのだが、図書館として本当にそれでいいのか?という言葉は飲み込んだ。  そういえば王子様と金髪の彼は、2人とも最上位クラスのαだと誰かが言っていた。  α同士であれば本能でその力を感じられるとも言われているが、残念ながら俺自身は相変わらず自分がαである実感も気配もない。  ただ、あの圧倒的な存在感とオーラを目の当たりにすると、これがきっとそういうことなのだろう。  相談を終えた王子様は、金髪の彼と少し話をしたあとすぐに図書館を出ていった。  俺はその様子をぼんやり眺めていたら、王子様を見送っていた彼が急にこちらを向いたところで、目が合ったと思ったらそのままこちらにやってきた。 「あなたと話がしたい。閉館後に、待ってます」
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