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「なんだよ、友だち甲斐のない奴だな。それはそうと、お前こんなところでどうしたんだよ」
「大きい声を出すなよ。俺はここに入る権利を持ってないんだ」
「なんだって?」
「不法侵入だよ」
そう耳打ちされたメンデルは慌てて自分のオフィスに二人を引きずり込むと、そのまま鍵を閉めた。
「おい、不法侵入ってここのセキュリティはそんなに甘くないぞ」
「フォークナー教授のパスカードと網膜を借りた。フォークナー教授は部屋で殺されていたんだ」
パトスは懐から眼球を取り出してメンデルに見せた。
「う、殺したのは?」
「俺たちじゃない。だが、教授を殺した相手は、恐らく俺たちのことも狙っている」
「パトス。面倒事はごめんだぜ」
パトスはメンデルの言葉を無視して、彼の袖を引っ張り、ウェスリーの前に持って行った。
「とにかくこれを見てくれないか? これ、何に見える?」
ウェスリーは抱いていた赤ん坊をメンデルの方に向けた。そして、この太った男もまたベイビーが人間であることを見抜けるのか、気になった。
「なんだよ、これ。ネアンデルタール人のクローンか?」
メンデルもまたその風変わりな赤ん坊を人間と見抜いた。
「鋭い。そう思いたいくらいだが、この子はどうやらある夫婦の間に生まれた子どもらしいんだ。奥さんの方はそこのおまわりが見てるんだけど、そのおまわりはこの子の父親を猿だと思いたいらしい」
「この子の父親が猿? フハハハハ、笑わせやがる」
メンデルは腹の底から愉快な笑い声を立てた。ウェスリーは、あと十秒笑い続ければその膨らんだ図体を殴り飛ばしてやると、心の中で指を折り始めた。
「そう笑うなよ。お前だってこの子に何が起こったのか説明できないだろう?」
「説明できなくたって、人の夫婦が産んだなら人には違いないさ。ちょっと奇病に見えるけどね」
「だが一応、染色体の数を数えてみようと思うんだ。この子の染色体の数が四十七本か、四十六本か」
「まあ、俺だって興味がないわけじゃない。よし、協力してやろう。だが、そこの寒々しいボノボはどういうわけなんだ?」
「ああ、こいつはチームの一員さ」
「一員なもんか。影武者だよ」
ウェスリーは黙っていたら目玉さえ食ってしまうこのチンパンジー、――残念なことに彼の中ではまだチンパンジーと同一視されている――、とチームを組んでるなどとは、誰にも思われたくなかった。
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